猫と忍術(後編)
オレ達は忍術を学ぶ事になった。
「どうやって、学ぶんだ?」
「くノ一の術、楽しみだな」
「如月⁉ いつの間に⁉」
如月が知らない内に戻って来た。
だが、かとりは気にせず、明るく、
「忍術はねー‼ 向いているかー‼ どうかのー‼ 試験があるのー‼」
「へー、そうなんだ」
「って言う訳でー‼ この桶の中に顔を突っ込んでー‼」
大きな桶の中には、水が入っている。
「さあー‼ かとりがいいってー‼ 言うまでの時間ー‼ ガマンしてー‼」
「わかった」
オレ達全員、桶の中に顔を突っ込んだ。
「……」
「…………ぷはっ」
初めにギブアップしたのは、八郎だ。
「……」
「…………ふにゃ」
次はエリンギだ。
「……」
「…………」
十分ぐらいした頃に、
「…………はあ」
オレがギブアップした。
「……」
残った如月は三十分ぐらいしたが、動かない。
「もういいよー‼」
「…………そう」
如月が顔を上げると、かとりは笑って話した。
「適正はー‼ 如月や猫丸ぐらいー‼ 出来ないとー‼ 忍之者になれないんだー‼」
「……十分も?」
「まー‼ 猫丸ぐらい出来てー‼ 向いているけどー‼ 気にしなくていいよー‼」
「いや、長いだろ」
「次に修行ー‼ 行くよー‼」
「修行か」
どんなんだ?
「忍之者はー‼ 速く歩かないとー‼ いけないー‼」
「そうだな」
「一日に四十里ー‼ 進まないとー‼ いけないー‼」
「四十里?」
「約百二十キロだ」
「ひゃ……」
オレが驚いていると、かとりは話を続ける。
「その為のー‼ 走り方はー‼ 八つ折りにした力紙を奥歯で噛んでー‼ 自分のー‼ 足元を見ながらー‼ 小刻みに歩くー‼」
「へー」
オレ達も力紙を噛んで、歩いてみた。
「なるほど」
この歩き方なら疲れない。
「次にー‼ 呪文だよー‼」
「呪文⁉」
姿が消える術なら、エリンギが……。
そう思っていると、さとりが手を動かした。
「これがー‼ 臨兵闘者皆陣烈在前だよー‼」
「何すか? それ?」
「これをするとー‼ 悪霊降伏やー‼ 怨敵退散やー‼ 災厄忌避やー‼ 祈願成就などにー‼ 効果があるんだー‼」
「そういうものなの?」
「これをー‼ 一文字ずつ唱えるごとにー‼ 印を結ぶんだー‼ さあー‼ やってみてー‼」
オレ達は練習するが、その中で如月は器用に、
「えい」
上手くこなしている。
「やるねー‼」
「ふん」
「やあ!」
オレも負けじと、如月の真似をする。
「やるねー‼ 猫丸ー‼」
「やるな」
オレも褒められたので、ちょっと上機嫌になった。
「ふにゃ!」
エリンギも、それっぽく前足を動かして上手くしている。
「猫すごいねー‼」
「そうだな」
かとりとさとりは意外という目で見ている。
そして、最後は八郎だ。
「では、行くぞ」
「若様ー‼ 出来ますよねー‼」
「見ていろ」
八郎も出来た。
全員が出来たので、かとりとさとりは上機嫌だ。
「すごいねー‼ 次はー‼ 忍術についてだよー‼」
とうとう忍術について、学ぶ事になった。
「忍術か。でも、現実は……」
影分身とかじゃないんだよな……。
「この鶉隠れの術さー‼」
「鶉隠れの術⁉」
「みんなー‼ 見ていてねー‼」
かとりは、オレ達の前で鶉隠れの術を披露した。
「これが鶉隠れの術ー‼ 見つかるかなー‼」
「「「「…………」」」」
かとりは顔を隠して丸まっているだけだ。
それを見たオレ達は小声で、
「どうする?」
「見つからないふりをするか?」
「そのまま帰れば?」
「俺は如月の意見に賛成だ」
オレ達が帰ろうとすると、かとりが、
「待ってー‼ すごい技なのにー‼」
と言い、オレ達を止めた。
「この技はー‼ 隠れる所がー‼ 無い時のー‼ 最後の手段さー‼」
「これが?」
「そうー‼ この暗闇の中ではー‼ 有効なのさー‼」
確かに、この時代は暗く、はっきり言って、夜は真っ暗で何も見えない。
それを考えれば、これは有効なのかもしれないが、こんな昼間じゃあなあ……。
「さあー‼ みんなー‼ やってみてー‼」
オレ達も全員してみたが……。
「ではー‼ このー‼ かとりがー‼ 見つけようー‼」
かとりが動いてオレ達を探したが……。
「猫丸ー‼ 見っけー‼ 若様見っけー‼ 如月見っけー‼ 猫見っけー‼」
「そりゃ見つかるよ‼」
昼間に全員、その辺の原っぱに丸まっているだけだもん。これを見つけられない方がおかしいぞ。