猫と家出
今日はついに、この日だ。
「猫丸、行くぞ」
「ああ! わかっている‼」
「雌猫! 女‼」
ついに備前に行く日だ。
「お土産も買ったし、行くか!」
こうして、オレ達は備前に行く事になった。
「着いたぞ。猫丸」
「ああ」
久しぶりに見た城だ。
「石山城に来たぞ」
「ああ、相変わらず、城って感じしないけど」
石山城は城と言うより、砦の様な城だ。
オレ達は石山城の一室に荷物を置くと、すぐに外に出かけた。
「さて、居るかな?」
近くの村に来ると、三人の子供が遊んでいた。
「おーい!」
「あっ、猫丸!」
「猫のアニキ」
「猫丸さん」
遊んでいたのは、背の高いリーダー格の男の子が勘一郎で、一番小さい子が太助と言い、女の子が太助の姉のるいだ。
三人共、少し背が伸びた様だ。
「久しぶり、これはお土産だ」
オレは三人に、けん玉やヨーヨーや独楽に金平糖を贈ると、
「猫丸、これは何だ?」
「これは、けん玉って言って、こうやって遊ぶんだ」
オレがけん玉でパフォーマンスをすると、三人は興味津々でオレを見た。
「すごい! やり方教えて‼」
「これはな——」
こうして、三人との楽しい時間を過ごしていった。
三人と別れ、夜になり、石山城に帰った。
「猫丸。夜になったな」
「ああ」
「雌猫ちゃんとも遊べたぞ」
「エリンギ。お前な」
「まあ、良いではないか。それより、眠れないな」
「早く寝ないといけないだろ?」
「分かってはいるが、少し眠れないのだ。猫丸、その板の物語を見せてくれないか?」
「いいよ」
オレの持っている板=スマートフォンの中にあるマンガを八郎は気に入っているんだよな。数か月前に姉ちゃんが来た時に、新刊とか見せてもらった時はオレと八郎の二人で一緒に見たし。
エリンギは眠り、二人でマンガを読んでいると、
「猫ちゃーん‼ 居る?」
外から大声が聞こえたので、八郎は刀を、オレは木刀を持って身構えると、
「居るだろ‼ 猫ちゃん‼」
「この声は……」
寝ているエリンギを置いて、オレと八郎が外に出ると、外で待っていたのは、
「「如月!」」
如月がオレ達の前に居た。ここは備前だぞ⁉
「猫ちゃん。秀家。遊びに来たわよ」
「秀家とは、あまりその名で言うな」
何故、八郎はあまりその名で言うな、かと言うと、秀家は八郎の諱で、目上の者を諱で言うのは失礼な事なので普通は通称で呼んでいる。まあ、官職がある者は官職名で呼ぶのがいいんだよね。オレも初めは怒られたし……。
「いいじゃない。それより、遊びに来たわよ」
如月を中に入れ、話を聞く事にした。
「如月、何があったのだ? 何故、備前に来たのだ?」
「遠いだろ。ここまで」
「ああ? ボクの足なら近い方だよ。すぐ着くさ」
「すぐ着く距離か?」
「ボクにはね」
「如月、教えてくれ。備前に来た理由を?」
「家出だよ」
「「家出⁉」」
「そっ、い・え・で!」
「家出って、何かあったのか⁉」
如月は不機嫌そうな表情になり、
「ゴミの奴だよ」
「如清さんが、どしたん?」
「ゴミの奴がボクに縁談を勧めてきたんだよ」
「え、縁談⁉」
確かに初めは驚いたが、この時代では如月ぐらいの年齢なら結婚適齢期だ。
「如月の年なら如清殿も勧めはするだろう」
「……如月、するワケ無いよな」
「当然だ‼ ボクは弥九郎様の性奴隷だぞ‼ 何で他の馬の骨と結婚しなきゃいけねぇんだよ‼」
「「…………」」
「とにかく、ゴミが結婚破棄するまで、ボクはてめぇらと過ごす‼」
「「ええっ⁉」」
「それまでは、猫ちゃんとの付き合いだ。言う事は少しなら聞いてやる」
「す、少しなら、って……」
「では、帰ってくれないか? 如清殿の為にも……」
「それはねえよ。ゴミの為は無い」
「駄目か」
「ンニャンニャ……何だ。うるさい……」
今まで寝ていたエリンギが起き上がった。
「ん……何だ……如月か……。如月ぃ⁉」
横になりかけたエリンギが目を覚まして、如月を睨みつけた。
「如月‼ 何の用だ⁉」
「家出、それだけ」
「家出⁉ 知るか‼ 帰れ‼」
「帰らねえよ。ここに居させてもらう」
「バカ猫‼ ボンボン‼ 追い返せ‼」
「うーん……追い返せって、言われても……」
「もう遅い。朝でもいいだろう」
「こいつなら、夜も朝も関係無い‼ 早く追い返せ‼」
「今夜は、如月の寝る場所を用意する。朝になってからにしよう」
「はあ⁉ 朝だと‼」
エリンギは絶叫しているが、如月はオレに色目を使い、
「あら、猫ちゃんと一緒でもいいのよ」
「嫌だよ! 如月と一緒は‼」
「そう、残念ね」
如月は戸を開けて、外に出ると、
「ボクは何処でもいいのさ、寝床なんて」
「「あっ⁉」」
気が付くと、如月は何処かに行ってしまった。
「どうする?」
「初日だと言うのに、明日から苦労しそうだな」
「後悔するぞ。バカ猫、ボンボン」