猫と阿呆薬
「さて。ランニングも済んだし、帰るか」
オレは大坂の町中での早朝ランニングが終わったので、宇喜多屋敷に帰ろうとすると、
「きゃっ!」
「ごめん!」
オレは、ある女性にぶつかったので謝ると、
「何だ。猫ちゃんか」
「き、如月!」
オレの目の前に居るのは、白拍子の如月ではないか‼
如月、弥九郎さんこと小西行長の兄、如清の猶子であり、体は両性具有である事で上様たちのご機嫌を取っているのだが、それ以上に淫乱なのが、玉に瑕だ。
未来人である如月は、姉ちゃんが来る前から現代的な着物を着ていたが、今では露出度を高くアレンジした着物を着ている。
「猫ちゃん。ボクは葉っぱを集めたのさ」
如月はぶつかった際、ギザギザの細長い葉っぱを、周りにばらまいた。
「何? この葉っぱ?」
「この葉っぱはね。弥九郎様に使うのさ」
立ち上がった如月は葉っぱを拾いながら、オレと話している。
「弥九郎さんに⁉」
この如月は、色々あって弥九郎さんにほれ込んでおり、いつも弥九郎さんに夜這いとかをしているのだが……。
「とにかく、弥九郎様に使うのさ。じゃあ」
「あっ‼ 待てよ‼」
ウインクして如月は去って行き、オレだけが残された。
「何だよ。たく」
残されたオレが一人、歩いていると、
「猫殿、どうしました?」
「あっ! 王の兄ちゃん」
王の兄ちゃんこと……確か、高山右近だったっけ、がオレの前に現れた。
オレが王の兄ちゃんって呼んでいるのは、月曜の夜中の番組に出ている高槻市のラッパーに似ているから、そう呼んでるワケだ。勿論、当人は知らない。
王の兄ちゃんは、普通の着物なので安心する。それもそうだよな。姉ちゃんとは、揉めたし。
けど、オレの事を唯一、未来から来ているって知っている人間なんだよな。
「猫殿、髪に葉がついていますよ」
「えっ⁉」
王の兄ちゃんがオレの髪に触れ、その葉っぱを取ると、その葉っぱを見つめている。
「……」
「どしたん。王の兄ちゃん?」
「…………」
王の兄ちゃんは様々な方向から葉っぱを見つめている。
「あのー……」
「猫殿、これは……阿呆薬の元ですね」
「阿呆薬?」
「阿呆薬と言うのは、この大麻の葉を日に乾かし粉末にして、薄茶三服程度用いると、心うつけて阿呆になる薬ですよ」
「そんなにヤバいの?」
「ええ、そうです。ですが、猫殿。何故、猫殿が?」
「ああ、それは、如月にぶつかった時に——」
オレが王の兄ちゃんに説明すると、
「成程。如月が、ですか……それは、ある種、危険かもしれないですね」
「そうだろ!」
「では、私からアウグスティヌスに言っておきましょう。間に合うかどうか、分かりませんが」
「王の兄ちゃんが言ってくれるのか⁉」
「ええ、言っておきます」
そう言うと、王の兄ちゃんは早歩きで去った。
「じゃあ、一安心だな」
オレが、宇喜多屋敷に帰り、しばらくすると、
「猫ちゃん‼ 出て来い‼」
「何だ何だ?」
「何かあったのか?」
大声で怒鳴られ、八郎と共に玄関に行くと、如月がいた。
「猫ちゃん! てめぇ‼ 何、ボクの計画を台無しにしているんだよ‼」
如月が大激怒して、オレ達の前に現れた。
「台無しって、何を?」
「猫ちゃんが、弥九郎様にハッパの事を言いやがって‼」
「それって、王の——」
「大体、猫ちゃんだろ‼ ボクの邪魔をするのは‼」
気付かれていたか、じゃあ、どうすれば……。
「猫ちゃん。このハッパどうしてくれる‼」
如月は大量の葉っぱをオレの目の前に押し付けながら、怒鳴りつけた。
「葉っぱの事、言われても……」
如月が持っている大量の葉っぱの処分なんて、どうすればいいんだ?
「とにかく、弥九郎様は、このハッパを使わなかったんだ‼ どうしてくれる‼」
「どうして、って言われても……」
乾燥させた阿呆薬の葉っぱ……どうしようと言われても、どうしようもない。
そんな中……。
「ふにゃー」
「エリンギ⁉」
エリンギが乾燥させた阿呆薬の元を吸っているではないか⁉
「ふにゃー。日本版のヘアーが見たいにゃー」
「エ、エリンギ?」
「何を言っているのだ?」
葉っぱを、葉巻風にして吸っているエリンギはラリっている様に見える。
「あら、キクラゲ。ハッパを吸ってラリっているわね。大麻には、吸い方があるのに」
キクラゲとは、如月のエリンギの呼び方だ。この如月もエリンギと同じ時代から来たので、エリンギが喋る事を知っている。
「えっ⁉ 吸い方があるの⁉」
「ええ、吸い方を知らないと、ちっともトベないのよ。それに、大麻は一年以上吸わないと効果無いしね」
「そうなのか⁉」
「つまり、キクラゲは一年以上吸っている常習犯って事ね」
その言葉にスマホを見て、
「……三時五分、確保」
大麻を吸っているエリンギを抱きかかえ、首に紐で縛って動けない様にした。
「ふにゃー」
「キクラゲを逮捕って事ね。次はくさよしにするわ」
如月はその言葉を言って、宇喜多屋敷の外に出た。
「な、何だろ……」
「さあ、わからない事だ」
それから、夜になって、
「バカ猫‼ これはどういう事だ⁉ 何故、俺は首輪をつけて縛られている⁉」
元に戻ったエリンギが首輪を外そうと暴れ出した。
「……エリンギ。自分のした事に気付くまで、大人しくしていろ」
「何だと⁉」
エリンギはオレに対して引っ掻いてきたが、それはオレには届かなかった。
「エリンギ、首輪はしばらく外さないぞ」
オレは朝まで、暴れるエリンギの見張りをした。