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備前宰相の猫・二巻  作者: 山田忍
10/30

猫と魚屋

 こうして、オレ達は大坂に戻った。

「本当に、かとりとさとりもついて来るのか?」

「まーねー‼」

「ついて行くさ。魚屋め……」

 かとりは忍者服だが、さとりは覆面で顔を隠している以外は、普通の小袖を着て歩いている。

「猫丸、着いたぞ。大坂に」

 久しぶりの大坂は活気があって賑やかだ。岡山もいいが大坂もいいな、と思ってしまう。

「一旦、宇喜多屋敷に帰るぞ。それからでもいいだろう」

「わかったー‼」

「……待てません。魚屋‼ 魚屋は何処だ‼」

「えっ⁉ ちょっと‼」

 さとりは飛び上がって屋根から屋根へと移動して去ってしまった。

「……先に宇喜多屋敷に戻るぞ」

「はーい‼」

「荷物置いてからでもいいよな」

 先に行ったさとりを無視して、オレ達は宇喜多屋敷に戻った。

「着いたー!」

 宇喜多屋敷に荷物を置くと、

「さとりが気になる。小西殿の屋敷に行くぞ」

「弥九郎さんの屋敷かー。オレ、弥九郎さんの屋敷、行った事ないな」

「屋敷より小西殿の事だ。行くぞ。猫丸」

「ああ」

 エリンギはオレの肩に飛び乗った。

「南蛮かぶれの死体、楽しみだな」

「エリンギ」

 八郎の案内で弥九郎さんの屋敷に行くと、

「?」

 ガチャーンとか、バリンとか、暴れまわる音が聞こえてきた。

「暴れているな。急ぐぞ」

 オレ達が弥九郎さんの屋敷に行くと、

「魚屋ー‼ 覚悟しろー‼」

「何や‼ 何処のどいつや⁉」

 フランベルクを構えた弥九郎さんと忍刀を持ったさとりが睨み合っている。

「忘れたか‼ 魚屋‼ この私を‼ 人を側室にすると言っただろうが‼」

「側室……? もしかして、儂を商人と言って馬鹿にしたくノ一の小娘か?」

「くノ一と言うな‼ 魚屋‼ あんな淫乱な女にしたのは(うぬ)だろ‼ 魚屋‼」

「淫乱? 如月の事か⁉ あれは儂が少し手を出しただけで——」

「問答無用だ‼ 全て汝のせいだろうが‼」

「せやから、儂——うわっ!」

 さとりは弥九郎さんを斬りつけるが、弥九郎さんはそれを避ける。

「弥九郎さん。何かしたんすか?」

「あっ‼ 猫さん‼ 儂を助けてくれへんか?」

 オレ達に気付いた弥九郎さんが駆け寄って来た。

「助けるって弥九郎さんが悪いんやない?」

「いや、昔、備前におった時に儂の悪口を言ってたから、懲らしめただけや」

「……」

「側室って、さとりに何か酷い事言ったやろ?」

「忍之者より儂の側室になったらどうや、とは言ったんやけど……」

「じゃあ、死んでください」

「何でや‼ そんな簡単に言うたらあかん‼」

「弥九郎さん。怒りますよ、それは」

「小西殿、自業自得だ」

「猫さん! 坊ちゃま! そんな事言わんと——」

 弥九郎さんがオレ達の肩を揺さぶっていると、

「弥九郎様ー‼ 助けてあげまぁす‼」

 何処からか如月が降って来た。

「さとりちゃん‼ ボク達三人で——」

「や、やめろ‼ 淫乱な女め‼」

 さとりは逃げ出して、如月が追いかけた。

「待ってよー!」

 さとりと如月がいなくなると、弥九郎さんはフランベルクを納めた。

「助かったわ。如月のお陰やな……」

 弥九郎さんは嫌そうな顔をして遠くを見つめているが、オレはある事に気付いた。

「そう言えば、エリンギは?」

 今までオレの肩に居たエリンギがいない。

「確かに、私が見た時は猫丸の肩に乗っていたな」

「何処かで散歩でもしてるんやろ」

「散歩ならいいけど、ちょっと探してもいいですか?」

「ええけど、おらんやろ」

 オレ達で弥九郎さんの屋敷を探していると、

「弥九郎さんの屋敷は南蛮趣味ですね」

「そうか? あの阿呆よりええ趣味やろ」

 あの阿呆……虎之助さんの事だ。弥九郎さんと虎之助さんは不仲で知られているからな。

「どうやろ?」

 皆でエリンギの居そうな所を見ていると、

「ふにゃーん」

 ある一室から、聞きなれた愛らしい声がしたので襖を開けると、

「ふにゃーん!」

「まあ、可愛い」

 可愛いロリータの服を着た女の子の膝の上で甘えている。

「エリンギ……」

「こんな所に居たのか……」

「ん? あああああああー⁉ 何をしているんやー‼」

 弥九郎さんが女の子の膝の上に居たエリンギの首根っこを掴んでつるし上げた。

「ふぎゃ‼」

「何をしているんや⁉ 何を⁉」

「どうしたんすか? 弥九郎さん?」

 弥九郎さんがエリンギを投げ、オレがキャッチしたら、弥九郎さんはエリンギを指さし、

「何、儂の娘の膝の上で寝ているんや‼」

「「娘?」」

「はい。そうですよ」

 可愛い女の子は愛想よく答えた。

「とにかく、儂の娘の膝の上で寝るな‼」

「「……」」

「どないしたんや? 猫さん。坊ちゃま」

 二人で座り込んで、

「弥九郎さん。如月ぐらいの娘がいるのに、如月に手を出していたのか」

「吉利支丹なのに……さとりに殺されても、高山殿が事情を知ったら見て見ぬふりをするかもしれないな」

「何か嫌な事、言いよるやろ‼」

 弥九郎さんは激怒しているが、オレ達は気にせず、

「さあ、帰るぞ。猫丸」

「そうだな」

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