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03話 とりあえず住処を確保




 死んだ……という自覚はさっぱり無いが、どうも俺は幽霊のようだ。

 死んだらみんなこうなるのか? それともここがあの世なのだろうか?


 まあ、説明も何も無かったし、他に同じ立場になった人も居ないので、その辺は深く考えないようにしよう。


 とりあえず、幽霊と言う事で今の俺に何が出来るか試してみた。


 イノシシから逃げる時に卵を掴めた事から、物に触れる事は出来る。まぁ、そうじゃないとどうして地面を歩けるのかっていう問題になるからな。

 ただ厄介なのは、きちんと触る!と認識して触れないと、物に触れたり掴んだりする事は不可能と言う事。何も考えずに物に触れたりすると、その手は物体をすり抜ける。

 また、どうも無意識下での行動は、実体があるものとして認識されるようだ。試しに足場が無いもの……と強く認識した見たら、そのままストンと地面の中に落ちた。……慌てて泳ぐように地面の上に這い出たけど。あのまま深く深く潜ったらどうなっていたかと想像すると、ちょっとおっかない。


 そして、この世界の生物には俺の存在は知覚できない様子。

 池の水を飲んでる草食タイプらしき動物に近付いても、何の反応も示さない。試しに触ったり突いてみると、驚いたように逃げてしまう。

 食われる心配が無いという意味では便利である。


 そして空腹であるが、やはり腹は減らないようだ。試しに水を飲んでみようとしたが、予想通りに口からそのまま身体をすり抜けて地面へと落ちた。喉が渇いている訳でもないけど、これはちょっとショックではあった。もう食べ物が食べられないのかと思うと、やはりキツイ。


 とりあえずそれは置いておいて、次の問題は衣服。

 ワイシャツ、綿のズボン、革靴……下はTシャツにトランクスに靴下まで履いている。

 俺が幽霊ならば、これは何なんだ?

 試しにワイシャツを脱いでみて地面にポトリと落としてみた。すると、ワイシャツはスーッと空気に溶けるように消えていくではないか。

 ギャー! 俺の服がーッ!!

 と、思ったらいつの間にかワイシャツが復活していつの間にか俺は着込んでいた。どうも完全に消える事は無いみたい。

 続いて水に濡らしてみたりしたのだが、一時的に濡れるだけですぐに元に戻った。

 ……どうも、俺はこの恰好がデフォルトになっているみたいだ。


 衣・食の問題が片付いたら、次は住……というか住む場所。


 幽霊に住居が必要なのかという疑問もあるが、とりあえず腰を落ち着けられる場所が欲しい。

 それに……足元に転がる三つの卵に視線を向ける。

 どうもこいつ等は俺を認識出来るみたいだし、放っておくわけにもいくまい。幽霊に卵を孵化させるなんて出来るのかって話だが、預かった以上は出来る限りのことをしなくちゃならん。……預かったというか、押し付けられた気がするんだけどな。


『とりあえず、お前等の面倒は見るから安心しろ』


 と、言うと卵ーズはキャッキャッとばかりに上下に弾む。

 なにこれ可愛い。

 それにしても、卵の状態でここまで表現能力があるとか、さすがドラゴンだな。


 俺はとりあえず卵ーズを抱きかかえると、進路を森へと向ける。

 平原の真っただ中に拠点を構えるよりは、森の中の方が幾分かは安心できる。まぁ森の中にも危ない生物は居ると思うが、俺自身は幽霊だから関係ないし。


 とは言え、森の中を適当に歩き回った所で棲家に最適な場所などある筈も無い。

 洞窟でも見つかれば……と思っていたが、そんなに都合よくは見つからなかった。


 ちなみに、歩いている最中に馬鹿でかいクワガタムシみたいな生物を見かけた。……およそ1メートルサイズ。でかいなんてレベルじゃねェ!

 他に、これまた馬鹿でかい猿……熊……森の中に居そうな動物が居る居る。そのサイズが明らかに凶悪レベルなんだけど。

 とは言え、幽霊である俺には奴等は一切気が付かない。平気で傍を通り抜け、住処に最適な場所を探し回る。

 幽霊と言う事で疲れる事もないのか、何時間もウロウロと歩き回り、いい加減日が暮れてきた。ここからが幽霊の本領発揮という時間帯であるが、暗くなったら住処を探すどころではない。それに、夜行性の動物がまた動き回るだろう。俺一人なら問題ないけど、卵ーズが今は一緒だしな。


「よし!」


 歩き回っている中、最悪あの場所にしようと決めていた。こうなったらそこにしよう。

 俺は天を見上げ、より高い木を探す。

 動物たちのサイズが巨大なためか、森の木々もそれなりにでかい。ちょっとしたビルぐらいの高さである。

 そう、俺の決めた住処というのは木の上だ。

 これで、地面を這う生物は気にしなくていいだろう。

 ただ、問題はこの巨大な木をどうやって登るか……という事。

 木肌はゴツゴツしているから、掴んで登れなくはないだろ。でも、卵三つを抱えたまま木を登るという行為は現実的では無い。

 ならばどうするか……。


 今の自分の状況が現実的ではないので、その辺の心配はいらないのである。


 森の中をウロウロしていて、幽霊ならばできる事……を、いくつか考えてみた。


 その一つがこれだ!


 意識を集中し、空中に“足場”があると認識してみる。

 まずはあの木の枝の辺りまで……あそこまで、階段があるというイメージ! 認識一つで物を掴めたりすり抜けたり出来るのなら、このように無い足場を想像して空中を歩ける事だって出来る筈。


 脳内に見えない階段を意識しながら、宙を踏む。

 その瞬間、俺の右足は確かにしっかりとした足場を踏んだのだ。そして、それを起点としてもう片方の足を持ち上げ、更にもう一歩宙を踏む。

 ……俺は、空中を歩いていた。

 幽霊ならば、空中浮遊も出来るだろうと思っていた。だが、いきなり飛ぶという行為はちょっと前まで普通の人間だった者にはハードルが高すぎる。だから、見えない階段をイメージし、それを駆けあがる。

 余計な事を考えれば階段はすぐに消えてしまうかもしれないから、迅速に……かつ慎重に上る。


 そうして太い木の枝まで俺は辿り着く事が出来た。


「で、出来た―!!」


 ふぅー! と溜め込んでいた息を吐き、俺はようやく感動に浸れた。

 形は不格好だったが、俺は確実に空を飛んだのである。いや、歩いた……が正確な所だけど。これは、本格的に練習したら、マジで空が飛べるんじゃね?

 そんな事を思いながら、再び空中階段に挑戦し、樹木のかなり上空まで登る登る。

 50メートルはありそうな樹木のてっぺん付近の枝を利用して、鳥の巣のような簡易的住処を作り上げる。俺自身の体重は無いみたいなもんだから、重みで枝が折れる事もあるまい。


 付近の葉っぱを利用してクッションを作り上げ、そこに卵ーズを置く。

 これでようやく落ち着けた。ここまでの高さなら、空を飛ぶ奴以外に狙われる心配もあるまい。


 ひとまず、やたらと眠くなってきたので一休みするとします。

 幽霊に睡眠が必要なのかと言う疑問があるが、とにかく眠いのだから仕方ない。


 とりあえず、おやすみなさい。




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