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02話 気付いたら幽霊でした




 ……目が覚めて俺はむっくりと身体を起こす。

 俺の身体は、のどかな平原に俺は寝っ転がる形で存在していた。

 俺の目覚めた場所はなだらかな丘になっていて、時刻は真昼間なのか青空の下、周りの様子がよく確認できる。目の前に広がるのは見渡す限りの平原で、背後には森林が広がり、遠くには海かと勘違いする程大きな河……それに岩山も見える。


 そして、その平原には馬鹿でかいサイみたいな怪獣が群れをなして歩いており、馬みたいなサイズのトカゲ……いや恐竜か。それがこれまた群れで平原を走り回っている。

 他にもでかい鳥だとか翼竜みたいなもんが空を飛んでいるな。


 ……うん。ここは俺の知っている世界じゃねぇ。


 記憶は無いけど元の世界の知識はあるようだ。その世界と、今俺が居る世界は全く違う。

 ……いや、ひょっとしたら数千年後とか太古の昔の世界とかそういう可能性もあるけども、とりあえず違う世界と認識して良さそうだ。

 だって、昼間なのに空にでかい星とか見えるもん!


 どうもこれは漫画、小説、アニメではよくある異世界転移とやら……らしい。その辺の知識はあるけども、実際に存在するとは思わなかった。そして、自分が対象になるとは、世の末である。

 まあ、違う世界に転移をしてしまったようなのだが、別に慌てたり悲壮感みたいなものは無いな。元々の俺の性格が楽天的なのか、それともかつての人生の記憶が無いからなのか……。

 まあ、ある意味二度目の人生って事で、のんびりと好きに生きてみようかな。


 とは言え、こんな所に放り出されたのだから、怪物に食われて終わりという可能性が非常に高いが、まぁなんとかやってみよう。

 とりあえず、集落を探す為に動いてみるとしようか。存在するかどうかは怪しいが、なければその時考えるとしましょう。


 そう思って立ち上がって歩き出そうとすると……


 何か足元にまとわりつく感触が……視線を下に動かすと、コロコロとあの三つの卵が俺の足に寄り添っていた。

 まるで、卵なのに意思があるかのような動き方!

 そして、この卵があるって事は、さっきのキラキラドラゴンは夢じゃなかったという事なのだろうか。


 また、こうして足元を確認して気づいた新たな事実が判明!


 なんと、俺の身体が半透明なのだ!!


 慌てて自分の身体を確認してみる。ワイシャツに紺色の綿のズボン……そして革靴。まるでスーツの上着を脱いだ状態である。ひょっとして、俺はサラリーマンなのだろうか。または就活中の学生?

 いやいや。問題はそこではない。

 やはり自分の身体を確認してみると、俺は透けている。

 手で顔を覆っても、その向こう側が見えるのだ。


 な……なんだこれは!?


 な、何か……何か、姿を確認できる物は無いか!?


 慌ててあたりを見渡してみると、小さな池がちょっと遠くに確認できる。俺はダッシュでその池に向か……おうとして気づく。

 ブフン……と鼻を鳴らす音に、生暖かい息。


 恐る恐る振り返ってみると、大体5メートル程の巨体の豚……いや毛むくじゃらで牙があるからイノシシか……が、クンクンと足元の卵に鼻を近づけていた。


 でけぇ!! そして、俺の知っているイノシシより牙がでかくて鋭い!?

 いきなりピンチ発動! 異世界転移して初っ端から食われるんすか!?

 いや、こんなに近くに居るというのに、イノシシは俺に全く興味を示していない。そればかりか、ペロペロと足元の卵を舌で突いている。

 ……ひょっとして、俺が見えなかったりするんでしょうか。イノシシの目が良いかどうかは分からんが、臭いとかは感知できるだろう。今の俺って、その臭いすらも無かったりする?

 だったら、このままこっそりと逃げ―――ようとして、足元に寄り添っている卵たちが目に入った。

 どうも、イノシシの狙いは卵たちの様子。そして、その卵たちはと言えば、心なしか怖がっているように見える。卵の状態で意思があるとか、どんなファンタジーだ……と思うのだが、俺がここでダッシュで逃げたら、この子達は多分目の前のイノシシに食われるんだろうな。


 ……うん、それは嫌だ。


 即座に俺は決断し、卵を三つともガッと抱き上げると、猛ダッシュでその場から逃げ出した。

 当然、背後からはブフォー! と咆哮をあげてイノシシが追ってくる。


 あれだけ巨大なイノシシに走りで勝てる筈があるまい。それがなんでこんな無謀な策に出たか。

 ただ単純にこの卵たちが食われるのが嫌だったから。

 それだけだ。


 それに、特に前の人生にも今の人生にも未練は無い。

 ならば、自分の矜持きょうじに従って生きるのも粋であろう。


 と、格好良い事を思いながら走っていると、全くイノシシに追い付かれていない事に気づく。

 そして、いつの間にか目標としていた池に辿り着いていた。

 目測だけど1キロ以上あったように思えたんだけど。それが、ものの数秒で辿り着けた。……どうなってんの?


 背後を振り返ってみると、遥か遠くにイノシシがこちら向かって走っているのが見える。だが、やがて諦めたのか動きを止めてのそのそと去って行った。

 ……どうやら助かったみたい。


 よし! 分からんけど、とりあえずは死なずに済んだみたい。

 まずは、自分の身体の確認である。


 卵をそっと草の上に置くと、恐る恐る己の姿を水面に映してみる。

 池は綺麗に透き通っていて、魚と思われる生物が泳いでいるのが確認できる。また公園とかにあるような池よりも大きく、他の野生動物達の水飲み場として機能しているのか、今は小動物達が池に顔を突っ込んで水を飲んでいる姿が確認できる。

 そして、問題の俺の姿であるが……


 ……映らなかった。


 こ、これは……これはどういう事だ!?

 よもや……よもや俺は……吸血鬼? いや違う。この半透明な姿からして、思い当たる言葉は一つ。


『ゆ、幽霊というヤツなんでしょうか―――ッ!?』


 思わず絶叫していた。

 そして、その声に反応してくれる者は誰も居なかった。




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