01話 ドラゴンの卵を預かりました
まず気が付いたら、目の前にドラゴンがいました。
しかも、ただのドラゴンではなく、虹色に光る十枚の翼。白……というよりは、クリスタルのようなキラキラとした鱗。数々の物語に登場するような、獰猛な雰囲気は存在せず、何処となく優しげな瞳をしたドラゴンであった。
ひょっとして、ドラゴンじゃなくて神様なのかな?
そう思ってしまう程に、そのドラゴンは神々しい存在感だった。
気が付けば、周りの背景……というか、世界も白一色だ。真っ白な部屋……という事ではなく、世界そのものが白に塗りつぶされている感じ。
これは……いよいよ俺も天に召されたという事なのだろうか?
どういった状況で天に召されたのか……と、記憶を呼び起こしてみようとしたが、脳内にあるのは空白のみ。
事故? 病気? それとも……あまり考えたくないけど、殺された?
………
……
…
駄目だ。何にも思い出せない。
それどころか、自分の名前、年齢、家族、住んでいる所すら一切思い出せない。
これはアレか。
記憶喪失ってやつなのか。
まぁ、思い出せないものは仕方ない。むしろ、頭がなんかスッキリしている。
じゃまぁ、目の前のドラゴンが神なのか神の使いなのかどうか知らないけど、天国でも地獄でも好きに連れて行って……いやいや、出来れば天国が良いです。地獄は嫌です。生前何していたかは知らんけど、悪い事した自覚も無いのに地獄ってのは勘弁ですぞ。
そんな事を思っていると、目の前のドラゴンさんがにっこり……と笑ったような気がした。ドラゴンの微笑みとか表現しようがないんだけど、そんな風に感じたんだから仕方ない。
―――え? 安心しろって事? 不思議と、何が言いたいのか分かる気がする。
でも、何を安心しろというのか。
そんな感じで戸惑っていると、目の前がピカーッと光った。眩い光……の筈なんだが、俺にはちっとも眩しく感じない。
すると、その光の中から三つの球みたいな物が出現する。
楕円形で、なんかラグビーとかアメフトのボールみたい。大きさは手でなんとか掴めそうなレベル。その三つの球は俺の目の前にふよふよと浮かんでいた。
いや、球と言うよりはより相応しい名称があるな。
……卵だこれ。
スーパーとかで売っている卵よりはるかにでかいが、確実に卵だろこれ。
まさかとは思うけど、これって目の前のドラゴンさんの卵なんだろうか? ドラゴンさんの体長は2~30メートル近くあるから、ドラゴンさん自身の卵にしては小さい気がするけど、問題はそこじゃない。
俺にこれをどうしろと?
声に出そうとしたが、声と呼べるものは出なかった。
それでもなんとか声を出そうと頑張ってみるが、やはり出ない。
すると、ドラゴンがまたにっこりと微笑み、俺に思念のようなものを送ってくる。
―――え? 頼む? 何を?
まさか……まさかとは思うけど、あんたの子供を俺に押し付ける気があるまいな。
おいおい勘弁しろよ。
どういった状況かも分かんないのに、そんな事頼まれても困るんだよ。
―――あ、なんかドラゴンの身体の輪郭がぼやけてきた。
ちょっと待った! そのまま消えるつもりかよ!! 説明! 説明をプリーズ!!
あ! 俺の意識も薄れて来た!
ちょっと待てー!! 本気でドラゴンの卵を俺に押し付ける気かよ!!
ふざけんなこらー!!!