第0話 死にたい
『母さんの…分まで』………
耐えきれない。
死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい 死にたい死にたい死にたい死にたいっ!
頭の中は『死にたい』という言葉で埋め尽くされて下準備は完了。あとは…
この橋を飛び降りるという、『勇気』という名のスパイスを加えるのみだ。それなのに…
「くそっ…!足が…震えてっ!!」
『勇気』が見つからない。ないと完成しないのに、どうしても見つけられない。さっきまで手元にあったのに、綺麗さっぱり無くなってしまっている。
「なんで…なんでなんだよ!…死にたいのに…なんで死ねないんだよっ!?」
そんな理由なんてもう分かっている。
「死にたくないなぁ…」
この一言が『死にたい』という気持ちをを全て弾き飛ばし、『勇気』を持ち去ってしまう。だからもう、『死にたい』なんて口だけで、本当は死にたくない。だけど、死にたい。
「本当に俺ってクズだ」
立っていた手すりから高くジャンプして飛び降り、着地に失敗する。
「………っ!」
(痛い。俺は生きている。)
そして、自然と涙がこぼれる。
「まだ…母さんに会えないんだなぁ」
母さんは3ヶ月前に亡くなり、その時から今まで寂しく1人で生きてきたが、耐えきれなくなって、今日自殺を試みた。俺は死後の世界を信じない人間だったのに、今日いきなり母さんに会えると思ってしまったんだ。
「またこの道を歩かなきゃいかんのかよ…」
家に帰るにはこの道を通らなければならなかった。この道にはたくさんの思い出がある、そう思ってさっきさよならを告げたのに。
俺は恥ずかしすぎて赤面してしまう。
気付いたら家の前に立っていた。ドアに手を触れてみると、頭の中に母さんとの思い出が流れてくる。
母さんは笑顔の素敵な人だった。いつも俺に笑顔で『おかえり』と言ってくれた。でも、『おかえり』と言ってくれる母さんはもういない。
母さんとの日常はもう帰ってこない。
また、ぼろぼろと涙を流す。
「こんなに泣いてたら、母さんに怒られちゃうな…」
腕でごしごしと涙を拭ってから、ドアを開ける。
「おかえりなさぁーい!」
俺の家の玄関に、少女が立っていた。