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辻橋女子高等学校34 ― ノーパンなら直ちに穿かせなければならない。弟として。

 さっき俺の名前を呼んだことで妃乃里ごっこが終わってしまったからそれを再開したくても自分から再開できないもどかしさが、その俺を見るキョロキョロに表れているのだろう。




「いや……なんでもない」




 ちょっと赤くなってる。どんだけ恥ずかしがってんだ。




「お姉様? 学校ではもっと凛々しいお姿で会長職を全うされているのでしょう? 一生徒に対して、そんなデレデレ顔を見せていたら威厳が減るんじゃありませんか?」




「で、デレデレ顔だと……私がか?」




「はい。この通り」




 沙紀の制服のポケットに手を入れて手鏡を取り出した。




「……これはやばいな。なんとかしよう」




 自分の恥ずかしい顔を見て、さらに顔を赤くしている。


 なんか女子っぽいじゃないか。


 今ならちょっとのことじゃ怒らなそうだな。


 


 ―――プニュ。




「お、おい……何をするんだ」




 人差し指で頬っぺたをつついただけなのに、そんな過剰な反応をするなんて……舞い上がってますな~、姉御~。


 あ、過剰というのは、もちろんいつもの沙紀の態度と比べてということですがね。


 いつもなら十倍返しメガトンパンチは当たり前の状況だが、今の沙紀はなにやらまんざらではない様子に見える。恥ずかしそうに上目遣いをしている。


 日ごろを知る俺からしてみれば、もはや誰だというくらいだ。妃乃里の目には沙紀がいつもこういう風に映っているのだろうか。


 もっと欲しがっている様にさえ見える。





 …………。




 そういえば、沙紀は結局パンツを穿いたのだろうか。




 自分の部屋で水色のパンツを穿いていたこと、その後それと同じ色のパンツが膝辺りにあり、それが二着目なのか、穿いていたのをそこまで下げてたのかわからないこと、最後にはその宙ぶらりんなパンツを投げ捨てたこと―――最終的に、今パンツを穿いていればいいのだが、万が一穿き忘れて今に至っていることも無きにしもあらずだ。うちの姉たちに不可能はない。


 あ、表現が違う。起こらない異常はないと考えておかないと、とてもじゃないがこの家で精神を正常に保つことはできない。




 こんなご機嫌な状況なら、ちょっと下から覗いてスカートの中を見ても怒られることはないだろう。


 弟として、姉たちの保護者として―――今の沙紀がパンツを穿いているのか、ノーパンなのかは、知るべき情報であり、ノーパンならば直ちに穿かせなければならない。


 お嬢様学校の生徒会長がノーパンで登校したなんてことになったら、もうそれは沙紀の生徒会長としての威厳が落ちるだけではない。辻橋女子高等学校という全国にも名をとどろかせているお嬢様学校としての品格が、その一情報だけで地に落ちる可能性がある。


 


 ……確認しておこう。




 まだ家に戻れる。ここで確認しておかなければ、電車に乗ってしまってはもう学校に間に合わせることはできない。




 俺は歩きながら身をかがめ、沙紀のスカートに手を伸ばし、少しばかりめくりながら顔をもっと下にもぐらせた。




 太腿は見えた。


 調整されたのであろう見事な細くて美しい両脚が目に映った。


 しかしその次に映ったのは、うっすらと筋雲をはべらせた青い空だった。

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