辻橋女子高等学校32 ― 通り名として筋肉マスターと呼ばれたがっている姉
「あ、それはそれでそうなんですが……その、時には……筋肉マスター……なんて呼ばれようかなと思ってます」
思ってんのかよ! 呼ばれてねーじゃん。
「ん~……つまりどういうことかしら?」
「そのお体を調整させていただいたのは私です」
……え、いや、うん。そうでしょう。そりゃそうでしょうよ。
あの場にいたのはあなたしかいなかった!
「調整っていうか……もはやそういうレベルじゃなくなくない? 魔法よ? もはや」
「あの、その……私は人の筋肉を皮膚の外側から筋肉の体積を調節することができます」
何言ってんの、この人。
「筋細胞の質量は変えずに体積、形状を変える技……とでも言いましょうか」
なにいってんの、このひと。
「変だと思いませんでしたか? この細い手足で奏陽がピクリとも動けないほどにいつも締め上げているではないですか」
もうほんとこの人、妃乃里に向けてしゃべってんな。
「そ、それは確かに思っていたけどぉ~……それは全身の筋肉をうまく使って、筋肉の使い方がうまいのかと思ってたけどぉ~」
「もちろんそれもあります。だって筋肉マスターと呼ばれたいから……」
呼ばれたいんだ。筋肉マスター。
確かに沙紀のパワーは異常だと感じていた。学校で仲間と取っ組み合うこともあるが、かなり力のある賢吾なんかとも比べ物にならないくらいのパワーを感じる。
「つまりこういうことかしら。沙紀ちゃんは自分の手足を自分で調整してその今の状態にしていると……?」
「そういうことですね」
「じゃあ本来はゴリマッチョってことなの~?」
「ご、ごり―――」
沙紀は口ごもるとすかさず少し離れて助走をつけ、俺の体に自分の腰を打ち付けてきた。
「そ、そんなお粗末な表現は嫌です、妃乃里お姉様!」
ちょっとイラっとしたようだ。普段沙紀が妃乃里に対して攻撃めいた行動はとらないからな。
「今の太さの……そうですね、腕なら三本分、脚なら二本分が、この今の状態まで調整されてます」
…………。
こういうことです。
こういうことですよ!
うちの姉たちの個性が強いがゆえの将来性への期待!
それがこういうこと、突飛な一芸を持つということ!
よっしゃ……これで将来金に困ることがなくなるぞ。美容整形なんて目じゃない、手術いらず、思い通りの体を手に入れることができる! 誰もが憧れる技術じゃないか! 世界中のセレブがいくらでも金を出してくれるに決まっている! 高所得者向けの金額設定にして、最低でも億単位にして……そんなんもう億万長者まっしぐらじゃねーかー!
こうなればもはや沙紀は嫁にやらなくていいと思えてきた。そんな将来性のある姉なら、女装でもなんでもやってやらぁよ。
「声も筋肉です」
なんだって?




