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辻橋女子高等学校31 ― 妃乃里欲

 頭皮のバーコードがこちらに向けられ、まるでスーパーのレジにあるピッってやる機械でピッってやりたくなるくらいに目に入ってくる角度で、ほぼ土下座状態だった。


 その親父の腕は前方に伸ばされており、その先端を見るや、手の甲に俺と同じローファーの踵が突き刺さっていた。




「妃乃里お姉様に近づくな。ゲスが」




 横を見ると、沙紀の殺意に満ちた顔がそこにあった。




「わ……わかった、わかったから早くどけてくれ……」




 沙紀は足を親父の手から離しつつ、すぐさまもう一方の脚でその手を腕ごと蹴り上げ、親父を一気に仰向けさせた。




「……さっさと失せろ」




 親父はバーコードを一心不乱に振り乱しながら「うあぁぁあああ」と言って、反対方向に逃げていった。




「大丈夫ですか? 妃乃里お姉様。お怪我はありませんか?」





 ―――やっぱり……。


 家を出る時からなんか様子が変だったが。。。


 モジモジしっぱなしだったが。。。


 その俺を見る視線は、日ごろ妃乃里に向けている、尊敬なのか、好意なのか、愛なのかラブなのか、またはそれら全てが入り混じっているようなものと同じなことに気づいた。




「妃乃里お姉様……?」




 首を傾げて問いかけてくる。




 ……間違いない。


 この人―――沙紀は、俺を妃乃里として扱い、妃乃里プレイを楽しんでいやがる。




「……あ、うん。大丈夫。ありがとう」




「ふふっ。よかったです」




 妃乃里にしか笑わない沙紀は、今をもって俺にも微笑みを向けたことになる。


 一体何を企んでいるのか……そんな妃乃里欲を解消できないくらいに妃乃里と絡んでなかったかな?




 まあいい。それよりも、俺はこの妃乃里プレイに乗った。乗ったのにはもちろん理由がある。




「なあ、そろそろ、教えてくれないか? この体、この声になったロジックを」




「…………」




 すみません。反応がないんですけど。


 今なら100%反応してくれると思ったのに。気持ちよく答えてくれると思ったのに。




 ……あ、もしかして。




「あのねぇ~、沙紀ちゃん。私、この体や声のこと、そろそろ知りたくなっちゃったりしちゃったかもなんだけどぉ」




「えっ……あ、はい、お姉様」




 やっぱり―――。


 妃乃里じゃないと答えない、動かないモードになってるんだ。


 どんなモードだよ。いらないよそんな機能!


 いや、その機能あってもいいから、そこに俺も入れてくれ。俺の言うことを聞くスイッチつけてくれ。




「お姉様は、私の通り名を知っておりますか?」




 通り名? 何かあったっけ?




「生徒会長じゃないの?」

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