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辻橋女子高等学校28 ― 画面の中に映る美少女の俺

「行ってらっしゃい」




 沙紀が靴を履く。


 


 ……ようやく行ってくれるのか。学校に。


 ここまで長かったぞ。すっっっごく。


 


「…………」




 なに。


 今度はなにっ!


 なんでドアじゃなくて俺の顔見てるの!




「……一緒に来て」




 なんだって?




「どこに?」




「学校に」




「どこの」




「私の通う高校」




 つまり辻橋女子高等学校ってことか?


 お嬢様学校総本山ってことか?




「……なんで?」




「言っただろう。お前にしか……奏陽にしか頼めないことがあると」




「聞いた。聞いたけど……え? だって俺は部外者だし、それ以前に男だぞ」




「今はひの……女の子にしか見えない」




 完全に妃乃里っていおうとしたな。妃乃里お姉様って。




 いや、そんなこと言われても。アレも生えてるわけだし。


 でも、昨日の脱衣所で見せた沙紀の顔は、不安そのものだった。あんな顔の沙紀を見たのは少なくとも今この瞬間に開ける記憶の引き出しの中には見当たらない。




「今日は平日ど真ん中、水曜日だぞ。学校はどうするんだよ……あ……あああっ!!!」




 自分の学校のことすっかり忘れていた!


 次女を遅刻させないことばかり考えていて自分のこと完全に忘れてた!!!




「何を焦っている?」




「いや、俺も学校あるの忘れてた!」




「大丈夫よ。結奈ちゃんになんとかしてもらってるから」




「……へ?」




 結奈?




 結奈が何をするって?




「結奈ちゃんがお前の分も出席してくれてる。影分身してくれてる」




「いやわけこんぶだから!!!」




 無断欠席するというやばい状況が神経を尖らせてしまい、燕返しな反応をしてしまう。




「そんなことできるわけないだろ!」




「でも結奈ちゃんはできると言った」




「どうやるって言ってた!?」




「自信満々にできるっていうから任せた」




 あいつが自信に満ちている時はろくなことがおきねーんだよぉ!!!


 絶対やばい……やばい気しかしない。





 ピロピロ―――。





「あら、結奈ちゃんから電話だ」




 結奈が沙紀のスマホ画面に現れた。ビデオ通話か。




「やっほー。沙紀ちゃん。あのバカ起きた?」




 ウィッグを被っている……。


 黒の無造作ヘア……。


 こいつ、完全にやりやがっている。かましている。偽の俺をかましているぞ。


 こうやって見ると妃乃里に顔をいじられる前の俺の姿を思い出すと、双子ってホント双子なんだなとつくづく思う。




「起きたわよ。ほら」




 あのバカで通じるところが悲しい。




「……は? え? ひのちゃん? 昔に戻ったの?」




 やっぱり似てるか。そっくりか。


 結奈がそういう反応を示すということはそうなのだろう。馬鹿正直という言葉があるが、それは結奈を形容するためにあるといっても決して過言ではないはず―――過言ですね、はい。


 相手のことでも自分のことでも混じりっけなく、心に思ったことをいうのが結奈の良いところであり、悪いところである。




「違うわ、結奈ちゃん。奏陽よ」




「うえっ! 嘘でしょ? ホント? あんたその道に進んだら新しい風を巻き起こせるんじゃないの?」




 どういう風だよ! 全然魅力を感じない風だな、それ!




「ちょっと、黙ってないでなんかしゃべりなさいよ。あんたのために私、だいこうふ……大活躍してるんだからっ!」

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