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辻橋女子高等学校27 ― 姉の寵愛

 聞きましたか。全弟連の皆さん。あ、「全国わがままな姉を持つ弟連合」の略です。


 もう時間がないというのにさ。


 だってあれですよ。うちの次女は味に超うるさいということはないけれど、レトルト製品を出せば「レトルトは口に合わない」と言うくらいにはうるさい人なわけで、つまりそれが意味するのは今からレトルトじゃない料理を作れということを意味する。




 俺はため息をしながらプチうなだれた。




「奏陽、お腹がすいたんだが」




「わーったよ。何が食いたいんだ?」




 近づいてくる沙紀にうなだれた状態から振り向きながらそう言った。




 沙紀は俺を見て固まった。


 目を丸くするとはこのことかと言うくらいに、ただでさえ大きい目をおっぴろげていた。




「妃乃里……姉様……?」




 まるでお化けかのように―――というのはいささか言い過ぎだが、それでも驚きの中ではかなり上位の、昔会っていたけどもう会えない人が目の前に突然現れたくらいの異常性、非現実性に由来する驚きを沙紀は見せていた。




「いや違うから。今の妃乃里ねぇはこんなに紫外線に強い格好ほぼしてねぇから」




 お化けみたいな格好をしていたのはむしろ妃乃里の方だ。あんな姿で夜この場所、廊下を歩かれたらたまったもんじゃない。




「じ、じゃあ奏陽、お前なのか?」




「さっき自分の部屋から追い出しただろうが」


 


「あ、ああ……それはそう……だが……」




 沙紀はおそるおそるといった様子で俺に近づいてくる。そして俺の手を引き、廊下に掛けてある鏡の前につれてきて俺の顔を俺に見せた。




 そこには妃乃里がいた。




 沙紀が驚くのも無理はない。




 鏡の中にいたのは、先ほどまでの男の娘の域を出ない、俺と結奈の一体どちらなのかという話の域をでないものではなく、まぎれもなく妃乃里だった。


 いや、まぎれはあるのだけれども。語弊の極まりないまぎれもなさだが、でもそれでも、昔の妃乃里を知っている者にとってしてみれば、俺の顔はあの頃の妃乃里そのものだった。




「いつの間にこれほどの完成度に……自分でやったのか?」




「いや、さっき妃乃里ねぇが……」




 妃乃里の部屋を見ると、ドアの隙間から「はぁ~い♡」と言いながらこっちに手を振り、ドアを閉めた。




 うぐっ……!


 急に首が絞めつけられる。




「どうやったらそんな寵愛を妃乃里お姉様から受けられるんだ……」




 なになになに、今度はなにっ!?


 なんか変な怒りが込められてる気がするんですけど?


 これは不可抗力だし、寵愛とやらを受けようと思って受けたものではないし。




「寵愛も何もねーだろ。めちゃくちゃ楽しそうだったぞ。ということは妃乃里ねぇは遊んでたってことだ。俺はただのキャンパスにされてただけだ」




「それでも……ずるい」




 ずるいって…………。姉妹愛が過ぎるだろ。どんだけ妃乃里が大好きなんだ、この次女は。




「そんなことより早く出ないといい加減やばいだろ」




「……ごはん」




「…………」




「お腹すいた」




「……下行くぞ」




 一階のダイニングキッチンに行き、ガスコンロ二台、電子レンジ、電気ケトルをフル稼働させて、冷ご飯を使ってオムライスとコンソメスープを作った。三分で。




 時間がない中でも、高校で習ったのか食べる前から食べ終わるまで、いちいち丁寧にお食べになるそのご様子を存分に披露された俺は終始やきもきしていた。

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