辻橋女子高等学校22 ― 誉め言葉製造器
「奏陽、離せ! これはお前のためなんだ!!」
「いや、止めたいから! だから姉御の動きを止めるためにしがみついてんの。重しになってるの! こんなこと伝えたところで誤解を与えるだけだし、いらぬ心配をかけちゃうかもしれないじゃん!」
もがく沙紀を押し留めるようにみっちりと両脚にしがみつく。ガッチリと締め付けて動けなくしているつもりだか、その締め付けが沙紀の太腿を通じて俺の頭も締め付けており、さらには沙紀のもがきで顔にかかる力はさらに増えている。血の巡りが明らかに悪くなっているのは感じているが、別にそれでいい。俺の頭がそれなりに柔らかい肉塊でガッチリと動きを封じられようが、後頭部に意図不明に、中途半端に両脚の間を架けている水色パンツが後頭部に当たっていようが、沙紀が胸元に入れていた赤いパンツで俺の顔を叩いてこようが、俺の、俺自身がこれまで積み上げてきたそれなりの名誉が守られるのであればそれでいい!!!
「誤解もカイコもあるか! そんないい匂いプンプンさせておいて私を騙せると思っているのか!」
いい匂いって……。
女が女の匂いをいい匂い判定するなんて初めて聞いたぞ。まぁいい匂いと言うならいい匂いなのだろうが。
しかしその男版、男のムサイ匂いをいい匂いというのは、そう思ったこともないし、聞いたこともないし、その前に聞きたくない。
「いや止まれよ……じゃなくて止まってくださいませ! とりあえず黙ってこの白くて美しい綺麗なお御足をどうかお納めください、沙紀お姉様!!!」
納めるの使い方が完全に間違っているような気がするが気にしない。
今はとにかく、沙紀の動きを止めることだ。褒めて気持ちよくなって止まってくれるなら、俺はいくらでも褒めてたたえてやる。過剰賞賛であっても、虚偽気味の賛辞であっても、それでこの場を切り抜けられるなら、俺は褒め言葉製造器になってやろう。
沙紀のもがく力が弱まった。
ふう……。
ようやく思い留まってくれたか。
俺も力が抜ける。
その時、顔の両側からかけられていた太腿の濃厚な重圧から開放された。
俺の顔に当てられていた必殺パンツ叩きも止んでいた。
俺はそのまま床に全身を伸ばしたままボトッと落ちた。
「私がこんなに……こんなにも身を呈して弟を救おうとしているのに……全然私に興味を示してくれない……これ以上私にできることなんて…………ない」




