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辻橋女子高等学校⑲ ― 万国旗があると楽しい気分になるのはきっと全人類共通

 乗っている。


 まるで温泉にでも入っている時のように頭に乗っている。


 ピンクのパンツがのっている。




 やべーよ。これは近江原おうみばる家始まって以来の天変地異、いや、この先の子孫何十世代を見据えてもこれ以上の突飛行動はもしかしたらないかもしれない。




 あの頭カチカチで融通の聞かない鬼真面目な沙紀が自分の頭に自分のピンクのパンツを乗っけているなんて誰か想像できようか。―――いや、できない。全然できない。だからこそ、俺は今、気づけばびっくりしすぎてどこそやの有名なロールプレイングゲームに出てくる敵キャラみたいな、おばけがでてきて驚いて両手を上にあげて少しのけぞるポーズをとっている美少女、もとい、自分が鏡に写っているのが見えた。





 ……落ち着け……落ち着くんだ俺。




 俺は上を見上げた。


 そこにはそれがあるわけでもなく、落ち着かせてくれるような何かがあるわけでもない。


 結果、落ち着くことができたかできなかったかを言えば、全然できなかった。


 もちろんそれは、落ち着くことができる環境ではないということは往々に含んでいるが、それよりもどうしてさっきまでなかった、イベントとかでよくある各国旗の旗を結んで、部屋を縦断させる装飾物、万国旗を見ることになろうか。





 ―――パンツバージョンの。




 


 万国旗のパンツバージョンとはいったいどういうことなのかという質問があったとき、俺はどう答えるのかといえば、「少なくとも国旗など1枚もなく、パンツとパンツを安全ピンでつなぎ、時には紐パンの紐で結び、それが部屋の宙を横断している。そして、それの壁との接触部は、画鋲で留めてある」くらいに言っておこうか。




 部屋の上空にパンツが横断している。


 パンツが列を成して横断している。


 同色のものはもちろんあるが、色とりどりのパンツが浮遊している。


 もちろんその光景は、綺麗とか、斬新とか、面白いとか、千差万別な感想を受け取るようなものだが、俺は、いや俺だからこそ真っ先に思うことがあった。




 高級パンツに画びょう刺すんじゃねーーーーーーよ!!!


 あんたらのパンツ、高いから!!! 高級品だから!!! 万いくから、万!!!


 あんたらのショーツを買うとき、買って無駄にならないようにするために、気にいってもらえるかを考えることにどんだけ神経すり減らしてると思ってんの!!!




 ―――と、思ってしまった。





 …………ん? おい。


 なんか気づけばそこら中にパンツおいてあるじゃねーか。


 え、うそでしょ? いつの間に置いたんだ?


 ドレッサーのところにも「これが今日あなたが履くおパンツでございます」みたいな感じで上品においてあるし!


 しかも黒い紐パン!!!




 


 怪訝をたっぷり込めた視線を沙紀にやると、両手からもこれ見よがしに自分のパンツをぶら下げて持っていた。




 見せびらかすように。


 見せつけるように。


 見てほしくてしかたがないという具合に。




 右手に関しては、人差し指にかけてグルングルンに回している。


 今の沙紀の行動は、面白いか面白くないかで言えば、精神状態が壊れたかどうか等の不安を除けば、相当面白いことになっているが、その視線はいつも通りの大真面目も大真面目、微塵のファニーさも感じられず、冷徹だった。




 上半身でパンツが四枚―――頭の上、両手、残る一枚は谷間あたりのブラウスのボタンの間から垂れている真っ赤なパンティーである。深緑色のブレザーでパンティーが映える事この上ない。





 ……ちなみに赤いショーツをパンティーと思わずよんでしまうのは俺だけではないよね……?





 今上半身の説明をしたわけだが、あえてそこで分けた。


 とても同列にはできなかった。


 胸元のパンティーが可愛く見えるくらいだ。


 多分、今そこの窓からUFOに乗った宇宙人が「やっ!」なんて言って気さくに話しかけてきても、「お、おう」と返事をしてまた視線を戻すだろう。そんなふうに思ってしまうくらいに、さきの股下にも円盤にも似た形でその細い両脚に引っかかっていた。




 水色のパンツが。

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