七日晴海②
風紀委員会室の前についた。
この部屋にくるのも久々だ。前も同じような感じで呼び出された気がする。あれは放課後だったか?
入り口のドアは風紀委員会室だからといって特別なわけではなく、なんの変哲もない他の教室と同じ引き戸である。
入る前に一応コンコンとノックしてみた。
「……入れ」
ワンテンポ遅く返ってくる返事。
機嫌が良いわけではないだろうなという感じの低い声が聞こえた。
来たのは今日が初めてではないし、毎回ノックをしていたような気がするけど笑顔を連想させてくれるような明るい返事はこのドアの内側から返ってきた覚えがない。そんな光景を夢にすら見せてくれなさそうな、女の子にしては野太めの声が返ってきた。
「失礼します」
少しずつドアをあけ、中の様子を伺いながら入る。
部屋の中は委員会室ながら普通教室くらいの広さがあった。
入り口側とその反対側、つまり窓側ということになるが、その窓際に大きめな教卓のような机がある。机とその周辺は、木製の土台のようなもので1段高くなっており、言うならば教壇のグレードアップ版と言ったところか。一般的な教壇よりも奥行きがあるし、底上げ度も高い。その机に対して、たくさんの長机がその正面に10個の机が3列ほど並んでおり、まるで何かの事件の捜査本部でも設置されているかのようだ。
俺を呼び出した七日春海風紀委員長は、その捜査本部長が座るのであろう窓側の偉そうな席に座っていた。後光がさしているように見えるが、それは後ろの窓から注ぐ日光である。
捜査官が全員出払い、指揮官が1人本部に残されたような状態になっている七日先輩だが、なにやら悩んでいるようで両肘をついて手を合わせ、眉間に皺を寄せて一点を見つめている。見ようによっては、誰かに呪いをかけているようにも見えなくはない。一生分の憎しみを今この一瞬に込めて呪ってやる!とでも目で訴えているといっても何らおかしくない視線を反対側の壁一点へ集中砲火を浴びせている。心なしかその壁が黒ずんでいるような気がするのは……たぶん気のせいだろう。
呼び出した割に、入れといった割には目線すらも配ってくれない。
でも、怨念じみた眼光をくらうくらいならこのまま時間が過ぎるのを待った方が良いか……。
完全に放置プレイなこの状況に困惑しながらも、とりあえず呼び出し主の元に恐る恐る近づいてみる。あと大股で五歩くらい歩けば……というところで先輩は右腕で自分の目の前の席をかざした。
指示されるがままに席に座り、正面を見上げると、視界には眉間に縦筋が3本入った七日先輩のもったいない美人顔があった。
黒髪ロングヘアーで制服を校則通りにきっちりと着こなしているまさに王道優等生といった外見なのに、どうも真面目すぎるというか、気むずかしいというか……てか恐いが一番しっくりくる。存在が恐い。いるだけで場が締まるというか。だから、風紀委員長という立場、肩書きはぴったりなんだろうなと今一度思った。うちの真ん中の姉に系統的には似ているが、沙紀がクールなのに対して、表現するとすればフローズンって感じだ。冷たいどころではなく、凍るような冷たさ。実際、さっきから時間が止まったかのように場が凍ったままだ。先輩は壁を睨みつけ(睨みつけてはないのだろうが)、俺は七日先輩の顔を見ている。先輩の肌はとても白いため、だんだん機嫌が悪い雪女に見えてきた。
呼んでおいて招くだけ招いて着席放置プレイというのは今に始まったことではないが、慣れることはない沈黙は決していいものではない。美人で絵面がいいので(眉間あたりは除く)まだ耐えられるというのはあるけど。
でも貴重な休み時間がどんどん削られていくので話しかけてみることにする。