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辻橋女子高等学校⑭ ― 誰かブラコンの上位互換を教えてくれ!

 俺は今ほど目を丸くしたときをこれまであったかは覚えていない。


 言う内容もさることながらそれを言う人がまたそうだから。


 本気で頭大丈夫かと思ってしまった。昨日のショックがまだ残っているのだろう。そういうことにしよう。そうでないと俺の中の動揺が収まらない。




「……泳ぎたくなったときです」





 …………。




 …………。




「…………それは魚の方だろ。どうしていつの間にか魚視点で物を考えているんだ」




 俺が気を使って魚の思考を繰り広げてやったんだよ。姉が弟に自分にキスしたいときはどんなときだとか聞いてくる姉がいるかよ!!!




「キスはキスでも接吻の方だ」




 いやそうでしょうよ!きっとそうだと思ってたよ!この人冗談いわないから!!!


 くそう。勘違いしてかわしきろうと思っていたというのに。この質問じゃ対応できないじゃないか。このブラコンめ!


 


 しかしどうする? こんなのまともに答えたら今後未来永劫ずっとネタにされるに決まっている。かといって答えなければこのパンツの件をすぐさま拡散される。


 いやまてよ。まとも答えるってんだよ。おかしいだろ。まるで俺が日ごろからキスしたいと思っていることを内に秘めてるみたいじゃねぇか!!!




 くっそー。


 この状況……一体全体何を言うのが正解なんだ!!!




「…………寝てる時です」




 そう答えた瞬間、沙紀の顔色が変わった。変わったと同時に、沙紀の足がドアに向かって動き出す。


 俺はその動きを感知し、すぐさま沙紀の両脚を掴むべく飛び込んだ。




「は、離せ奏陽!お前の私への思いはうれしいが、でもやっぱり妃乃里お姉さまに報告しないと。奏陽にはやはりどこか変質的な行動心理があると!!!女の寝込みを襲うなんて!!!」




「違う!誤解だって姉御!」




「誤解? 誤解だと? じゃあお前は私のことを好きではないということなんだな?!」




「いや違う! そこじゃなくて―――」




 この瞬間、俺が沙紀にぞっこんだということが、会話上で確定してしまった。




「―――変態じゃないから!普通だから!いい加減信じてくれよ!沙紀ねぇの寝顔がかわいいだけなんだって!」




 必死すぎていらないことまでくちばしってしまった。




 ……。


 今後のことを考えると、いっそのことクマウサパンツをさっさと他の姉達に自らリークした方が総合的な被害が少ないんじゃないかと思えてきた。




「今かわいいと言ったか……? 私が?」




「……そ、そう」




 かもしれない―――。


 かもしれないを付けたかった!けど心の中で言っておいた!だってそうじゃないとまたこの脚が巨人のごときパワーで突き進んじゃうもの。




「……そうか。そうなのか。かわいいか。……かわいいならしかたないか。うん」




 ふう……。なんとかなったか……。




 ほっとして目を遠くにやる。心が落ち着くと今まで見ていなかったものにも視線がいくようになる。時計なんて久しぶりに見た気がするぞ。




 ―――ん?





「おい! 時間! 過ぎてる! 十時! 遅刻!!!」





 俺は血の気が引いた。


 そして血の気が引くと片言になることがわかった。





「ああ、そうだな」




「なに平然としてんだよ!生徒会長が遅刻したらだめだろうが!」




 これまで姉達の世話焼きをしてきた上で、俺にはそれなりに誇れるものがあった。その一つが遅刻をさせたことがないことだ。


 結奈に関してはどうでもよいが、妃乃里のJK時代、そして沙紀と、この二人に関しては生徒会長という立ち場から絶対に遅刻なんてできない。そのくせ自分では起きようとしないのだから、俺に課せられた責務は相当なものだ。


 俺はこれまで三人の姉達を遅刻させたことがない―――このことは誇りだったのだ。


 しかし、その誇りもどうやら今日までのようだ。




「まあ待て。大丈夫だ。学校にはうまく言ってあるから」




「……そ、そうなのか」




 よかった……。


 いやいいのか?


 生徒会長のメンツは保たれるだろうが、無遅刻記録がなくなってしまったんだぞ。




「でも十二時くらいには行かないとだが」




 まだ時間がある……か。余裕があるわけではないが。




 沙紀はいつ起きたんだろう。間に合うなら行けばよかったのに。


 ……あぁ、そうか。俺か。


 俺にしか頼めない何かがあると言っていたな。もういろいろありすぎてわけがわけわかめ。




「では奏陽……始めようか」




 振り返ると沙紀が両手に何かを持って俺を待ち構えていた。

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