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辻橋女子高等学校⑬ ― 女の匂いに囚われている女

 めちゃくちゃ憎しみこもってるんですけどその表現。その感情はどこ由来なんだ?姉感情由来か?母性由来か?




「そのパンツを着て出て行ったら追い剥ぎにあってパンツだけ残されてそそくさと帰ってきた……これが真実なのではないか?」




 ようわからんが、どうやら沙紀の思考の深層部でとんでもない妄想が繰り広げられているようだ。


 とりあえずこの話の中には微塵も真実はまぎれていない。





「いや違うし。第一そんなんだったら穿いて返しに行くことあるか」




「脱がしてもらいたいんだろ?」




 いやそんな真顔で、そういう趣味をお持ちですよね?みたいな言い方するのやめてもらえますか?




「そういう願望があるなら私に言ってくれ。そうしないから道の真ん中でパンツ一丁になるはめになるんだ」




「いやないから。もってないからそんな願望」




「だってそうでもしないと説明がつかないだろう。そのパンツの匂い。とてもじゃないが幼い子やご老人のものではないぞ」




 そこかーーー!


 沙紀がどこで引っかかってるのかと思ったけどそこかー。匂いかー。




「姉御がどう思おうが、事情はさっき説明した通りだよ」




「……まぁ、お前は私にぞっこんだからな。わざわざ他の女のパンツを手に入れて穿くようなことは普通しないだろう」




 俺が否定できない状況なのをいいことにぶっ込んできやがる。否定するわけにはいかない。沙紀の機嫌を損ねるわけにはいかない。いくら俺が沙紀の脚にしがみつこうが、沙紀のパワーを持ってすれば引きずるどころかいつもと変わらない速度で歩くことなど十分可能なのだから。




「私のどこが好きなんだ?」




「……え?」




「私のどこにぞっこんなんだ」




 ぞっこん前提なんだけど。


 弟が自分にぞっこんが当たり前みたいなんですけどこの人。




 ……いやそんなことあるわけないじゃん。


 いくら浮世離れしているうちの姉達といえども自信満々に弟に向かって「私のどこが好き?」なんていってこないって。


 これはきっとあれだ。「ぞっとする。こんなとき」の略だ。


 うん。そうだ。きっとそうだ。そうに違いない。




「………………笑顔」




「……そうか。なるほどな。笑顔か。そうか」




 なんか頷いてる。めっちゃうんうんしてる。




「じゃあ仕草はどうだ?」




「………………ぬいぐるみを抱いているとき」




「ぬいぐるみ……? ああ、あれか。なるほどな。うんうん」




 ……沙紀はぬいぐるみをよく抱いている。


 そして抱かれている間、ぬいぐるみは本来の造られた形を留めていることはほとんどない。


 なぜならば、プロレス技の練習台になっているからである。実戦練習台は俺だから、その前の個人稽古相手という感じだろうか。


 だからぬいぐるみを持った沙紀を見かけると、未来を灯す光の照度が一段階下がるのだ。




「では、私にキスしたくなるときはどんな時だ?」

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