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辻橋女子高等学校③ ― 男は乳首を隠すべきなのか、べきじゃないのかを巡る全俺会議は今も続く

 我らが近江原家おうみばるけの次女にして、通う高校である辻橋女子高等学校の生徒会長である沙紀が、希有な格好で俺の行く手を阻んでいた。


 そのポーズ、膝と腰を少し折り曲げ、顔を引き戸に限りなく近づけており、片目を閉じて単眼鏡を覗き込んでいる。まるで姿を見せたらとんずらする動物でも影から観察するような姿勢である。


 これは、今の沙紀の姿を表す上での最上級表現であろう。今の俺の姿と沙紀の滑稽な立ち姿、いや、中腰姿を考慮した上で今も微動だにしない沙紀の行動を端的に表すならば、俺の二番目の姉は、弟である俺の脱衣を覗いていたということだ。




 俺と沙紀を隔てていた引き戸が眼前からなくなった今、この状況下において、この距離の近さからして必要なのかと聞かれれば決してそうでないであろう単眼鏡の先にあるのは俺の乳首である。






 ……はっっ!!!




 乳首である、とか冷静に言ってる場合じゃなかった!




 あれが! あっちが!! ブラブラさんが丸出しじゃないか!!!!!!





 俺は股間にサッと手を置き、あれ周辺が閉鎖空間と化した。








 ふぅ……。





 あぶないあぶない。





 さっき見られた時の話をしていたばかりじゃないか。まあ沙紀には見られても大事にはならないから別にいいっちゃあいい気もするが、その前に俺自身の羞恥心というのが一応ある。




 沙紀は意外にも多少動揺しているのか、依然として伸縮式の単眼鏡を持ち、そのレンズは俺の胸部を映しているであろう角度。もちろん姉に乳首をじっくり見られたところでどうとすることはない。




 生まれた時から大して変化のない乳首など、その時から見られているのだから恥ずかしさを感じることもなかろう。




 そのまま一点に俺の乳首を見つめる者と真っ裸で股間を手で閉鎖した者がそのまま対峙する。






「ふぅ……」





 ため息をつきながらさっきまでのどこかのジャングル探検隊員のような姿勢を解き、いつものような凜々しさ極まる立ち姿へと変わる。


 さっきまでの見ようによっては無様感すら否めない姿勢から一転して背筋を正し、胸の前で腕を組んで厳しげな表情を見せる。


 とてもさっきまで俺の乳首を凝視していた人の姿とは思えない。そしてまるで今俺の存在に気づいたようにこちらを見た。






「ん? どうしたんだ。そんな真っ裸で扉を開けて自分の裸を見せつけるなんて。そんなナルシストな弟に育てた覚えはないぞ」





 おこおいおい、なんだそのまるで今たまたま偶然ちょうどここに通りかかったみたいな言い方は。プライドの高い沙紀はあくまで自分は見せつけられている側に回っているようだが、どうあがいても見る側であって、見‘られている’側はこちらなのだ。





「俺も自分がそんな育ち方をしたことを自負していないよ。そう見えるのは沙紀ねぇの目がそうさせるのさ。その長ーい目がね。伸縮自在のその‘目’が。……てかここで何しているの?」






 いつから見ていたのだろうか。全然気がつかなかった。というか、見てたのなら俺が着替えに困ってたのはわかっただろうに。ちょっとくらい……ちょっとくらい毎日頑張ってる俺のために部屋から着替えを持って来て扉の隙間からさっと手を入れて差し出してくれてもたまにはいいんじゃないかなぁ? たまにはちょっとくらいそういうこともしてもらえると、弟ちゃん、明日も張り切っちゃうんだけどなぁ! 張り切っちゃってビーフストロガノフとかローストビーフとかスペアリブとか作っちゃったりするんだけどなぁ!




 ……まぁもしそんなことが起きたら、俺はまっさきに救急車を呼ぶだろうね。運ばれるのはもちろん姉達だ。それは一種のハプニングで、天変地異の類といって他ならない。


 




「弟がいる脱衣所の前に姉がいる―――そんなの、目的は一つに決まっているだろう」




 真面目な表情であたかもあたりまえのことを聞かれてうんざりしてため息を吐かれる。状況からしてどう考えてもこちらが被害者なのに、なぜか姉の方が優勢になっているような気がするのは気のせいではない。





「……用心棒?」




 沙紀はわかってない、まるで何にもわかってないと言わんばかりの呆れた表情を添えてゆっくりと首を横に振った。




 何度も往復させたあと、満足したのか止まってこちらを見て口を開く。





「真の弟の観察だ」





 その時の視線の先は、俺の両手によって形成された閉鎖空間に包まれているあれに向けられていた。

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