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妃乃里と買い物21 ー たわわの揺れる効果音はとても重要らしい

「おい、ねえちゃん。そこのおっぱいポヨヨンねえちゃんよ~」




 金髪、耳にピアス付きの男が妃乃里に向けて言った。


 もう一人の男は髪を赤色に染めて金髪の後ろでニヤニヤしている。


 チャラ‘そう’ではなく、チャラさ全開の二人組だ。




 当の妃乃里はというと、周囲をキョロキョロと見回した。


 まるで誰のことを言っているのだろうという心情を体現するかのように。




「おい、何キョロキョロしてんだ? ねえちゃんのこ・と・だ・ZE! 巨乳のねえちゃんよぉ~」




 金髪はそう言いながら妃乃里の顎に指を当ててくいっと顔を上にあげる。




 




 …………おいおいおい。なんなんだよ。何絡まれてんだよ、妃乃里姉ぇ!


 目を離していた隙に何かチャラ男たちのお気に召さないことでもしたのか?


 妃乃里はこれだけチャラさ全開のチャラ男という文字を現世に具現化したような存在を相手にしても、いたって冷静だ。何も動じていないし、どうもしていない。ただ無表情のお面をつけたような無感情面を、顎をあげられたままその視線の先、というか鼻先にある金髪の顔を見ていた。




 チャラ男たちは顔をニヤニヤさせながら妃乃里を見ていた。ただ見ているのではなく、妃乃里の全身をねぶるように見ている。特に胸の辺りに対して重点的に視線を送っている。金髪の後ろには、よだれが出ててもおかしくない呆けた顔が見える。




「ちょっとさぁ、ダチから緊急連絡があってよぉ。なんか今日はこのデパートでパフパフサービスがあるらしいっていうの聞いてよぉ。そのサービスしてる女の特徴聞いたらよぉ、ねえちゃんがよぉく似てたからさぁ、おれぇ、捕まえちゃったわ。…………ぶははっ! やっぱすげぇや、ねえちゃん! かなりいいもん持ってるじゃあねえかよぉまじでぇ。何食ったらこんな立派に育つんだよぉ。でよぉ? ねえちゃん、その二つのポヨヨンで俺らをどうにかしてくれんだろ? ん?」





 なんつーゲスい笑いかたしやがるんだ。見たところ俺とたいして変わらないような歳だと思うが、下手すれば妃乃里より年下の可能性だってありそうだけど、あれだけの威勢の良さと、デパートで最も混雑する時間帯になんつー事言いだしやがるんだあの二人は。


 だいたいそんなおっぱい情報が飛び交う連絡網ってなんだよ。チャラ男界ならではという感じもするが。


 きっと地下の食品売り場での俺達のやり取りを見たやつがいるんだ。もしかしてそれは後ろの赤髪か? まぁそこはどうでもいいか。てかどんだけおっぱいに飢えてんだお前ら。







「…………がう」





 妃乃里が口を開いた。






「あん? なんだ? 何か言ったか?」






「違う。間違ってるわ、あなたたち」






「あぁん? 何がだコラッ」






 妃乃里は金髪に顎を掴まれながらも物怖じ一つせず、鋭い眼光を金髪に向けた。






「私の胸が揺れる効果音は、ポヨヨンじゃなくて、プルンプルンよ!」






 そこかいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!




 あんだけ破廉恥なこと言われてておっぱいが揺れる効果音に対して突っかかる人がどこにいんだよ!




 ……いやいたよ。ここにいちゃったよ!!!





「あぁ? ……まぁ、じゃあいいやそれで。プルンプルンでいいわ。……で、だ。さっきプルンプルン暴れるそのパイオツの谷間に男の顔を押しつけてたみてぇじゃねえかよぉ」




 


 やはりそれか。


 どうやら妃乃里はお気に召さないことをしたのではなく、お気に召す行動をしてしまったようだ。


 あんな大衆の面前で家でやってるようなことやっちゃだめだよ。





「当然、俺達にもやってくれんだよなぁあ? 俺たちにもやってくれよぉ。そのばかでけぇおっぱいでよぉ~。パフパフしてくれよぉ」




 


 ねっとり絡みつくようなしゃべり方をする金髪は、下品な顔をさらしながら無駄に妃乃里に顔を近づける。もはやメンチを切ってるのか、キスをするのかよくわからない構図になっている。


 赤髪の男は手をわしゃわしゃと空気を鷲づかみながら妃乃里を見ながらニヤついている。






 まずいな……。


 何がまずいって、普通なら嫌よと拒否して、それでもしつこければ警備員、警察を呼んでなんとかしてもらうという流れだろうが、妃乃里の場合、ノリノリで触らせてあげるという流れも考えられなくはない。実際、触らせているところなんてみたことないけども、変態という点においては姉達の中では随一、そして今もなおその分野において成長中であるからにして、どんな異例なことでもあるかもしれないのだ。


 こんなところでおっぱいを揉ませたなんてなったら、公然わいせつでどうにかなっちまうって!


 これはまずい…………妃乃里は何をしでかすか全く読めない。他の姉妹なら行動を読みやすいのだが、妃乃里に関しては予想することがほぼ不可能に近い。この状況を見る限り、俺は警察沙汰になるところまで思考をめぐらせてしまう…………そのくらい、完全にまずい流れだ。俺の全細胞がそう言っている!





 …………止めに行かないと。


 




 妃乃里を知らない人があの状況を見たらどう見てもチャラ男が、ギャルをかなり過激にナンパしているように見えるだろうが、俺からしてみれば、どういう経緯で、どういうつもりでこんな展開にしたのかわからないが、あれは妃乃里の望んだ事態のはずだ。


 


 妃乃里は今の状況を楽しんでいるはずだ。


 


 ……おそらくな。これもまた俺の全細胞がそう言っている。




 


 なんにせよ、さっさと止めに行かないと、時間が経つにつれて事態は悪化する。




 止めに行こうと思った矢先、背後から声が聞こえた。





「どうかしましたか?」





 !!!!!




 俺はびっくりしてピシャリ!と勢いよくカーテンを締めた。





「なんでも…………なんでもないっ……ですっ!」





 「です」のタイミングで慌てて後ろを振り向くと、両手に同じパンツを持っている麗美店員がいた。





「そうですか……ならよかったです」




 大事にしたくない……。


 この人、麗美店員はこの店の店員なわけだから、つまりはデパート関係者だ。あんな様子を目の当たりにしたら立場的に何もしないというわけにはいかないだろう。少なくとも、警備室とかそのあたりに連絡するようになるだろう。




 俺としては、なるべく穏便に済ませたいため、できることなら麗美店員にはこの試着室の中で大人しくしていてもらいたいところだ。




 …………というか、この人、店員だよな。こんな長時間、店を離れていてもいいのだろうか。店舗内にいるのは確かだけど、実質店を離れているようなものだが―――。




 まぁいいか。この状況になってしまってはむしろ俺にとっては好都合だ。なるべく事を大きくするであろう要因は避けたいからな。




 さてこの後どうするかだが…………止めなきゃ。


 妃乃里のいたづらはただ事では済まない。




 個室から出ていこうとカーテンを掴んでいた右手を動かそうとする。


 しかしその時、自分の肩、背中及びお腹にスースーする感覚がふとよみがえった。






 ………………このまま出てったら、俺の方が注目を集めそうやんけ。


 ブラジャーを着けて、ブラジャー丸出しの露出狂男やんけ…………。




 


 仮にそうなった場合、自分より注目を集めた俺に対して妃乃里は嫉妬に狂うのであろう。





 とにかく着替えないと。せめて羽織ろう。仮にお胸が少し膨らむことになったとしても。今の状態よりは格段にマシなはずだ。




 俺の服はどこにやったか………………あれ?






 周囲を見渡すも、服は見当たらない。


 脱いだであろうところも見当たらない。


 どこにも見当たらない。





 どこにいったんだ?





 あれーと思って狭い個室の中に目を配っていると、おそらく自分の服であろうものの一部がひょっこりと顔を出していた。






 麗美店員の後ろで。




 麗美店員は、両腕を後ろに回し、俺の服を隠すように持っていた。





 俺は目を疑った。目を盛大に掻いた。


 でもその光景はどうやら幻想ではなさそうだ。





 ……………………いやわからん。全くもって全然わからんぞ。


 俺は麗美店員のこの行動至った真意を問いたださなければならないのだと思った。






「なんで俺の服を隠しているんですか?」





 麗美は俺の服を自分の後ろで保持しながら微動だにしなかった。


 しかし反応が無いとはいえ、両腕を後ろに回し、そこから俺の服が見えているということは、もうそういうことだろう。






 …………いやどういうことだよ!


 なんでこの人が俺の服を隠してんだよ!




 一応俺、お客ですけど? あなたのところのプチ高級気味な下着をこれまでそれなりに大枚はたいてきた者ですけど? そういういじわるしちゃうわけ?


 




 …………いけないいけない。お客はお客でも店側にとってみれば俺みたいな男性客は招かれざるお客というやつだろう。そんなお客意識を高く持ってはいけないな。反省。








 ……………………。







 …………………………………………。








 ………………………………………………………………いや、答えてよ!




 俺の服を隠してる理由教えてよ! 待ってるんですが!!!




 というか、もはや教えてくれなくてもいいから返してプリーズ!!!






 …………反応はない。ただのマネキンのようだ。





 もういいわ。日が暮れるまで待ってる時間ないから。どういう理由で俺の服を隠しているのか、いや、隠しているつもりになっているのか知らないけど、もう力ずくで奪っちゃうから。





 俺は麗美店員から自分が着ていた服を奪還するべく、ブラジャー姿のまま個室の中で麗美に向けて一歩を踏み出そうとした。






 ガシィィィィーーン――――――!





 


 動けない。





 前に進めない。






 前に行こうとすると、その分喉が押しつぶされる。




 首元を触ると、固い金属の輪っかのようなもの付けられていた。


 それには鎖が繋がれており、麗美店員に近づけないように個室の入り口の上の方に繋がれていた。

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