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妃乃里と買い物⑲ ー もしかしたらこれって間接キスの上位互換……?

「あっ、す、すみません」




 振り向かず、声のする方へ右手を差し出した。


 スッと持っていたブラジャーが手の中から抜かれ、その手を俺はそそくさと手前の腰あたりに戻した。






 …………………………。






 服が擦れる音が聞こえる…………。


 




 ほんのすぐそこ、三十センチかそこらしか離れていない距離から、男か女かわからない人の脱衣音が聞こえる。




 複雑な気持ちだ。


 どんな気持ちでこの事態に迎え撃てばいいか、未だに結論は出ていない。


 ただただドキドキしている、それしかできない、そんな感じだ。


 麗美店員が男であっても、女であっても、俺はこの状況を打破できる自信がない。


 そんなことだから、流れに身を任せているから、こんなことになったのだろう。





 ブラジャーを渡すとき、シャツを脱ごうとしている最中なのだろうというのはなんとなくわかった。


 あくまでなんとなくだ。


 鏡に映る姿が別の金属のものに反射してそれが目に入ってきて、白いシャツがはだけかけている姿を見てしまったなんていうことは決してない。


 あったとしても、俺は見たなんて言わない。


 


 今聞こえるガサゴソ音は、きっと、白いシャツを脱いでるんだろうなということはなんとなく想像はつく。そんなことは覗き見しなくても予想はつくってもんだ。 


 だって着てたもん。着ていたなら脱がなきゃブラジャーは着けられない。


 着ていた服の最後の一枚を、麗美店員は脱いでるはずだ。


 




 


 ………………………………。





 パチンッと小さい音が聞こえた。


 ブラジャーをつけ終えたという証でもある……か。


 それを着けたとき必ず聞こえる音でもないが、後ろの金具を止めたときや、その後のブラ調整中に勢いのいい音がする時がたまにある。姉達に着せるときには、ここだけの話し、イライラが積もりに積もっているとわざと勢いよくはじくときもある。その後は百倍返しとも言えなくもない仕打ちが待っているのは言うまでもない。結奈にやった時は、結奈が痛いわよ!という気合にも似た語気強めの台詞を吐き捨てながら俺の背中にビンタして、綺麗な紅葉を作り上げたことがあった。






「…………着ましたけど」






 ……着たんですか……着てしまったんですか、麗美店員っ!






 どう……すればいいんだ? どう動けばいい?


 自分がどういう行動を取ればいいのか全くわからない。




 





「あの……見てもらえないのでしょうか」







 ん……?





 あ、そうか。




 俺が麗美店員に似合いそうだということで渡したんだもんな。


 そりゃ俺に見る権利、そして似合うかどうかの判断する権利があるってものだ。


 もしかしたら権利どころではなく、義務というレベルまでいくのかもしれないぞ。


 俺のあのときのとっさの行動が今のこの状態を招いているのであって、麗美店員はその行動に対して答えてくれているわけだ。男か女かわからないけれども。たとえ女であっても、見て欲しいと言っているわけであって、見ることが義務である可能性もある現状なわけだから、これは見るべきと言っていいものなのだ。


 麗美店員の下着姿を―――このまま百八十度振り返って直視していいのだ。


 例えそれが男が女性下着をつけていることを目の当たりにすることになっても、大して知りもしない女の下着姿を見ることになってもいいのだ。義務なのだから!




 俺はゆっくりと振り向いた。


 すると、目の前には透き通るような白い肌に緑色のブラジャーを着用した麗美定員の姿があった。男にしろ女にしろ、どちらにしてもこんな場面は恥ずかしいはずなのに、そんな様子は微塵も見せることなくいつもどおりの真面目さ全開、真剣なまなざしで俺を見ている。


 先ほどからの麗美店員が話す口ぶりの中では、動揺なのだろうか、多少のためらいを感じられなくもないが、その一点集中型のまなざしが、その読みをかき消してしまう。




 




「……どうでしょうか。…………似合ってますでしょうか」






「………………その…………すっごくあれです……ピッタンコな感じです」






 俺の語彙力、そして表現力の無さに触れることは置いておいて、単純に、率直に言って似合っていた。それはもうこれ以上ないくらいに着こなしていた。マネキンの代わりに店頭に置いておいてもいいくらいだ。




 しかしあれだな。ダテに日々選り好みする三人の姉の要求を満たしてきてはない俺。我ながらいい感じにセンスが磨かれているようだ。それが姉達によるものであるということが気にくわないが。


 でもそんな自画自賛するまでもなく、これだけ白くきめ細やかな綺麗な肌で端麗な顔立ちなら、下着なんてどんな色でも似合うだろうよ。




 麗美店員は鏡に自分を映し、似合うかどうか考えているようだ。


 凛々しさを鏡に振り撒いている。鏡もまんざらではなく、なんかどんどん鏡が綺麗になって輝きを増している気がする。絶対気のせいだということはわかっているが。


 





「なるほど。大体解かりました」






 麗美店員はそう言うと、両手を後ろに回す。






 …………あっ!!!!!!!!




 俺は急いで再び目をつむった。


 そしてサッと念のため後ろを向く。壁との距離は気持ち的にはほぼゼロといったところだ。おでこがぶつかりそうでぶつかっていないというような。





「今度は奏ちゃんさんの番ですよ」









 ……………………………………。


 






 俺がこれまで生きて得てきた人生経験値を総動員して背後で行われているであろうことを想像するに……あ、いや、こんな経験はもちろん初めてなのだが、それでも頭をフル回転させて考えるにだな、きっと……あれだ……ここに持ち込んだ試着するブラジャーは一着しかない。そしてそれを着た麗美店員がいる。そしてそれを脱ぐような仕草をしたところまでは俺の目で追えているのだが……………………。


 つまり俺が危惧することは、ブラは一着しかないということ、この一点にある。


 そして、今、そのブラをどちらが着けて似合うか決めるということになっているわけで、そのイベントは進んでいるわけで、そのブラを麗美店員は今の今まで着けていたわけで、そしてそれを脱いだわけで――――――。








「あの……早く受け取ってください」






 やっぱりッ?!!!





 やっぱ差し出されてるよねッ?! 今!!! ここで!!! 俺の真後ろで!!!





 差し出されているのか……俺の後ろに…………………。





 俺はこのまま待たせるのも申し訳ないので、おそるおそる手を伸ばした。


 試着室に一緒に入った以上、こういう事態になることは予想できるものだった。


 俺もうすうす思ってはいたけどさ。やっぱこうなるのか。だって一着しかこの場にないんだもの。そらそうなるよ。試着しあうのであれば。







 ―――――――ぷるんっ。





 考えながら手を伸ばしていたら、何か柔らかい感触に出会った。




 ぷるんという感触だった。




 このぷるんは一体なんなんだ…………もう一度その辺りに手を伸ばしてよく触ってみる。







「そんなに私の二の腕が気持ち良いですか?」






 に、二の腕だって…………?!


 




「私としては早くブラジャーを受け取って欲しいのですが」





「あ、はい! すみません!」





 どうやら手を伸ばしすぎたようだ。伸ばしすぎて二の腕を揉んでしまっていたようだ。


 その腕の先、手に握られているであろう緑色のブラジャーをなんとか振り向かずに受け取ろうと感覚で探し、ようやく受け取ることができた。


 そのブラジャーを目の前で広げてみる。








 本当に俺はこれを着けるのか…………?








 完全に間接おっぱいじゃないか。



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