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妃乃里と買い物⑫ー姉の求めてる下着がわからない

 なんだ? 試着する気か?




「何してんだよ」




「何って、試着に決まってるじゃないの」




 籠の中は色とりどりの、種類もさまざまなブラジャーなりパンティーなりがたらふく入っている。てんこ盛りだ。溢れ返っている。いつの間にこんなに入れていたんだ。


 ざっと何が入っているか見る。




「……おい、肝心のストラップ無しブラジャーが入ってないぞ」




「あら? そういえばそうね。まあでもそれは後でもいいじゃない。奏ちゃんがあの人の性別を解き明かす謎解きミステリーを繰り広げてからでしょ。どのサイズを買えばいいかわからないし、わかる人に見繕ってもらわないとね~」




 奏ちゃんがそこらへんよく知ってればちょちょいって買えちゃうのにね~、はぁ。。。と頬に手を当てながらあからさまに落胆しやがりなさる。




 俺だって知らないことは知らないんだよ。必要のない知識を得るほどの時間なんてこれっぽっちもないんだよ。誰かさん達のせいでな。




「謎でもミステリーでもなんでもねえよ。男か女か。ただそれだけだろ。それよりさあ、下着はもういっぱい持ってるだろ? ありすぎて全然着てないのもあるじゃん。もてあそんでんじゃん。この間も買ってやったばかりじゃねーか」




 この間、妃乃里の衣装ケースを整理していたとき、下着スペースが足りなくなってどうしようか悩んでいたところ、「奏ちゃんにあげるわ。もったいないから穿けばいいじゃない」と他の姉たちの誰でもなく俺に言ってきた。


 何も捨てるとまでは考えていなかった。他に入れることができるスペースはないかと探していたのだが、そんな折に入ってきて、俺がパンツを持って悩んでいたから姉のパンツを穿きたがってる弟みたいに妃乃里の目には写ったのかもしれない。


 Tバックなり紐パンなり……まあでもTバックは男物でも売ってるからありっちゃありか。ただ紐パン……穿いて、学校行って、帰ってきていざ風呂に入るときに左右の紐を解くときの男子高校生の気持ちってどんなだろうな。


 捨てるのはもったいないし、姉のパンツのお古を穿かなければならないほどパンツ不足に陥っているわけではないので、とりあえず俺の部屋空いてる戸棚に収納してある。




「う~ん……だって奏ちゃん、いつもエッチな下着しかかってこないじゃない?」





 ………………ん?


 なんだ? 一体なんのことだ何事だ?!




「な、なに?! はっ?! エッチな下着? エッチな下着ってなんだよ! 人聞きの悪い!」




 人聞きというか下着聞きか。俺がこれまで買ってきた下着達の名誉のために謝れ。みんな俺がこの下着屋で過ごしてきた時間と比例して受けてきた羞恥心と共に家に帰ってきた、いわば戦友だ。そんな心の友である下着たちを侮辱するようなまねは許さないぞ、俺は!!!




「ほらほら~、動揺してるしてる~」




 してないわ!


 ゲラゲラ笑いやがってるが、とりあえず俺はエッチな下着と思って買ったことはない。きわどい下着はあったかもしれないが、それは着用者側の要望であり、それに見合うものを探すのはほんとに苦労するんだ。


 そもそもエッチな下着ってなんだ? いかにもでいかにもな着け方がわからないようなやつか? 紐が無駄に細かったり隠せてるのかどうかわからいないようなやつ。そういうのはどこで売ってるんだ? いや、知らなくて言い。少なくともここにはないぞ。さすがにそこまで俺の行動領域は広くはない。




「そんなエロ下着買ったことないぞ。買ったつもりもないし。だいたいそんなのここに売ってないだろ」




「う~ん、なんていうか~、勝負下着的なやつ? そういうのばっか。女の子は過激じゃないのも時には必要なのよ」




「お前らがそういうのじゃなきゃ満足しないからだろうが! 真っ赤とか、どピンクとか!!!」




 はぁ……。


 だいたい、昔の黒ストッキング時代ならまだしも、ちょっとでも大きく背伸びしたり、激しめな動きをしたら下着はおろか胸の先端部分が見えてしまいそうな格好をよくしている妃乃里が、逆にわざわざおとなしめな下着をつける必要があるのだろうか。激しい色の方が、見えてもいい感がでるのでは…………ん?




「おい。籠の中、パンツまであるぞ。それも試着するのか?」




「え、だめなの?」




 ……どうだったっけ。パンツって穿いていいんだっけ?




「ちょっと聞いてくるわ」




 


    *


    *


    *


 


 


「おい、妃乃里ねえ……うわっ!」




 とっさにカーテンを閉めた。




「なんでもう脱いでるんだよ」




「だって~、ここ試着室だし」




 ああ、そっか――――っておい、違うぞ。違う違う。いくら試着室でも真っ裸はおかしいだろ!




「そんなすっぽっぽんにならなくたっていいだろが!!!」




「だって~、全部脱いでおいた方が楽じゃない。ただ着けて取ってまた着けるだけよ」




 随分と試着する気まんまんじゃないか。




「それはそうだけども……」




 カーテンがあるから外からは見えないけども……けどもさ……いいのかなー。


 まあもういいや。言っても聞かないし。




「試着用のパンツもらってきたぞ」




 店員に聞いたらこの店ではパンツの試着ができるらしく、そのためにはこの紙パンツを使わなければならないらしい。これを穿いて、その上から穿くのだそうだ。




「それで、どっちだった?」




「何が?」




「店員さんの性別よ。聞いてきたんでしょ?」




 …………だあああああああぁぁぁあ!!!




 何やってんだ、おれは!!! めっちゃチャンスだったじゃん。それも聞いてくれば万事解決だったじゃん。




「……忘れた」




「……え? ぷふふ。そんなにおぱんちゅに夢中だったのね」




「違うわ!」




 ほらよとカーテンの隙間から手を入れて試着用紙パンツを渡す。外から見えないように隙間ができないように注意した。




「はいよ…………うわっ!」




 手の先の紙パンツではなく、俺の手がつかまれて引っ張られ、試着室の中に連れ込まれた。

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