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妃乃里と買い物⑧

「そんなに太いのがいいのか?」


「え……えっ?!な、何言ってるのよ、奏ちゃん!こんなところで!」




 その発言の真意がよくわからないけど、何にせよ今更感が漂ってるぞ。なんたって店員の股間まさぐってたからな、お前は。




「違うの、違うのよ。奏ちゃん。太いって言ってもね、太いほうがね、その……太いほうがいっぱい液体が浸み込んでいっぱいおいしくなるんじゃないかなと思ったの」




 とうもろこしと大根を両手に持って、なぜか焦り気味、言い訳気味に話す妃乃里。




「確かに、いっぱい浸み込んだほうがおいしいかもな。それだけ噛んだときにじゅわっと出るしな。ただ煮る時間が長くなるけど……まぁその間ほかの事してれば時間が無駄にはならないけどさ」




「……つまり放置プレイってこと?」




「ほ、放置プレイ……? いやまあ見張ってるけどな」




「見張りながら放置プレイって……奏ちゃん、いつの間にそんな立派な視姦プレイヤーに成長していたのよ。もしかして、お姉ちゃんたちもそういう目で見てくれてたの?」




 しかんプレイヤー……? 監視プレイヤーの間違えか? 何にしろ料理をする人に対してそういう言い方をするのは始めて聞いたが。




 ……その前にそういう目で見てくれてたってどういうことだ?




「そういう目もこういう目も、俺にはこの二つの目しかない。もういい加減に下着買いに行こうぜ。こんなことしてたら日が暮れちまうよ」




「そんな焦らなくてもいいじゃない。せっかくのデートなんだし。まあでもそうね。早く行かないと売り切れるかもしれないし……じゃあこのゴーヤととうもろこし、大根の三本を、そうね……ちょっと、そこのあなた。全部一つ一つ箱に詰めてプレゼント用に包んでくれる?」




 妃乃里はまだ床で悶えている店員を見下ろしながら言った。一体、この店員は妃乃里に何をされたんだ?




「プレゼント用? 誰にやるんだ?」




「沙紀ちゃんと結奈ちゃんよ。そして私」




「自分用もあるのか」




「ほら、姉妹平等にね。ちなみにプレゼントするのは奏ちゃんよ。お姉ちゃんたちは平等に奏ちゃんから渡されるの」




「はぁ……」




 渡したところでそれを調理するのは俺じゃないか。完全にカムバックすると思うのだが。それとも料理以外に何か用途があるのか……?




「……ってか、ゴーヤは誰も食わないだろ。嫌だぞ、また口に詰められるのは!」




「食べる? ……あ、ああそうね。そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないし、そうかもしれないわ」




「まったく意味わかんないんだけど」




 妃乃里が宙を見ながら少し困ってる様子で話している。今言ったとおり、全く意味がわからない。




「だって女の子なんだもん♡」




 なおさらわかんねえよ!そしてその谷間むにゅむにゅ悩殺ポーズやめい!そんな寄せなくても全身からあふれ出てるムンムンオーラで女ってことはわかるから。




 まあ味覚はどんどん変わっていくって言うしな。ピーマンとかもそうだが、苦いものは美容にいいって聞くし。たぶん、食べない女の子に食べさせるための迷信じみたものだと思うが、そういうものにもすがりたい気持ちは常にもっている。食べさせて綺麗になって、嫁に行ってくれるのであれば、俺にとってそれに越したことはない。


 


「じゃ、次行きましょうか」




 妃乃里は、ルンルンと歩き出した。


 渡された野菜と妃乃里を男性店員は交互に見て戸惑いを見せている。俺は後で取りに来ることを告げて、その場を去り、妃乃里の後をついていった。




 通り過ぎる男たちは例外なく妃乃里を視界に入れて通りすぎていく。どのくらいじろじろ見るかは個人差がある。ちらちら見る人もいれば、じーっと目をおっぴろげて凝視する人もいる。


 以前、道行く人が鼻血を出して、何人もの鼻血の落ちた跡が問題になりニュースに取り上げられたこともある。もはや歩く悩殺兵器といっても過言ではないだろう。




 そんなことを思い出しながら妃乃里の後ろを歩いていると、ウインナーの試食コーナーがあった。

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