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妃乃里と買い物⑥

「ふ~ん。久しぶりにこういうところに来てみたけど、いくらデパートとはいえあまり変わり映えしないわね」




 おいおい、一生懸命野菜並べてる店員さん、すぐそばにいるから!隣で一生懸命陳列してるから!そんなことを真横で言うのやめてくれ!




 普段から食料品の買い物をする俺からしてみれば、他のスーパーでは売っていないめずらしいものがあって、見てるだけでちょっとしたわくわく感がある。男子高校生が言うようなことではないと思うけどな。国内産が多く並べてあり、産地にもこだわっているというのがわかる。ただそういうこだわりというのは、どこのスーパーにもあるもので、それぞれの店ごとに得意な分野ってもんがあるんだろう。




 ふと横を見ると、なぜか妃乃里があまり好きではないごぼうを握っていた。




「これじゃあ細いわよねぇ……きっと」




 ……まあごぼうは細いよな。細いけど三姉妹の栄養状態を管理している俺にとっては、ごぼうの豊富な食物繊維にだいぶ助けられている。栄養はかたよりなく、そして満遍なくとるのが基本だ。三姉妹それぞれ好き嫌いはあるが、ごぼうは意外にも食べれない!とぎゃーぎゃー文句を言う姉はいない。


 たぶんだけど、一応彼女らも自分の美容にそれなりに気を使っているのだろう。好き嫌いは良くないから箸が進まない食材があると、その都度その食材の栄養価について俺は説明するわけだが、美容系そうな説明をするとだいたい食べてくれる。


 便秘は美容の大敵だからな。




 ―――ん?


 妃乃里が今度は隣に並べられていたゴーヤを手に取った。手に取り、そのまま目線より少し上に掲げて少し見上げるような角度でゴーヤを見つめている。その目つきは、明らかにさっきのごぼうを見ていた時とは違っていた。




 ……なんか、いやらしい。




 ごぼうを見るときにはない、うっとりとして艶かしい表情をゴーヤに向けている。どうして野菜をそんな顔で見ることができるんだ?


 太くて緑でごつごつしたゴーヤに手をゆっくりと這わせている。そしてまた上に撫でる。そんなこと何往復もしている。




 ……っていうか、もはやさすっているようにしか見えない。むしろ愛でるという表現の方がぴったりな気がする。いつの間にそんなゴーヤを好きになったんだろうか。




「ちょっとぉ、奏ちゃ~ん。これ……やばいかもぉ」




 ……いや何がよ。何がやばいんだよ。どうしてそんなに悦に浸った表情してんだよ、こんなとこで!!!なんか腰をくねらせモジモジしているぞ、このGカップ娘。


 よくわからないけど、モジモジしているということはおしっこに行きたいんだろ。




「おい、まだ十代とはいえ、大人の階段上ってる最中だろ。もういい大人の端くれなんだからこんな公衆の面前でそんなモジモジ見せ付けてないでさっさとトイレ行って来いよ」




 となりで品出ししてるお兄さん見てみろ。見てみぬ振りをするのに必死じゃねえか。モジモジしてる醜態をなるべく目に入れないようにしてくれてるんだ。なんていい人なんだ。ただ、耳が超赤くなっているんだが……なんでだろう。




「何言ってんのよ~!トイレなんか行ってる場合じゃないわ。見てよこれ!このイボイボ!」


「……ああ、見たぞ」


「そんな反応? そんな反応で終了なの? すごいわよぉ、これぇ。きっと。絶対やばいわよぉ。はぁ~~~」




 羨望のまなざしとはこういう目を言うのかもしれない。目をうるうるさせて上目遣いで欲望をさらけ出している感じ。ゴーヤをそんなもの惜しそうに見る女はそうそういないと思うが……。そうか。大人の階段を上って、苦いものも好きになってくる年頃ということか。俺の料理も幅が広がるというものだ。




「どうしてこんないいどうぐ……食材があるのに教えてくれなかったの? 買って置いてくれればみんな喜ぶと思うけど」




 どうぐ……? 


 今、道具って言ったか?


 そして買っておけばみんな喜ぶとは一体どういうことなんだ。




「昔ご飯で出したことあるぞ、ゴーヤ。出したら苦い!って言って、姉ちゃんたちが全力で俺の口に入れてきたじゃねえか。あーんとか言いながら詰めれるだけ詰めやがって」


「そうなの? でもそれはずいぶん前の話なんじゃない? 今はほら、みんなそれこそ大人の階段を上っているだろうから……ね」




 なんだその思わせぶりな言い方は。そしてそのにんまりとした表情がまた意味ありげな雰囲気だしている。


 正直、妃乃里の言っていることがさっぱり理解できない。なんとなくだが、俺と妃乃里の話がかみ合ってない気がする。


 だいたい、ゴーヤほどのクセ物をそんなおいそれと食べれるようになるだろうか。あの時の苦い思い出がよみがえってくる。 




 初めてゴーヤを使った料理を食卓に上げた。作ってるほうとしては、初めて扱う食材に少しわくわくしながら料理をする。小学生のとき、新しく買ってもらった文房具を始めて使うときにその感覚は似ている。そして料理ができて、みんなの口に合うかなと思いながら食卓に並べる時のちょっとしたドキドキ感もまた新鮮だ。ただ、うちの場合はドキドキ感ではなく、ハラハラ感を感じなくてはならないのだと思わざるを得ないことが前にあった。




 ゴーヤを口いっぱいに詰め込まれた時のことだが、その時、俺の口を後ろから無理やり開けさせていたのは結奈であり、横からあはは~と言いながら詰め込んで来たのは妃乃里であり、遠くからダーツでもするように投げ込んできたのは沙紀だった。パンパンに詰め込まれ、噛むことができず、もちろん飲むこともできず、にっちもさっちもいかなかったため、炊事場に吐き出そうと思い後ろを向いてブハァ!と吐き出したらそこには結奈がいて全身俺の唾液まみれのゴーヤだらけになった。俺の口に詰め込んでいる時に結奈の笑い声は聞こえていたが、まだ後ろに立っているとは思わなかった。ゴーヤ臭を漂わせたくっさい結奈が出来上がったことは、いまだに鮮明に覚えている。そして怒り狂った三女はいつも以上な入念なボディウォッシュと全身マッサージを要求、そして一週間の間、つきっきりの下僕として自分に付き従うよう命令してくるのであった。




「ちょっ、ちょっと!どうしたんですか、急に!」




 焦っている男の声が聞こえた。その声の主はさっき耳を赤くしていた店員さんだった。その声を荒げさせた原因は、どうやらそのそばでもぞもぞしているうちの長女のようだ。




「ねえ、いいじゃない。ちょっとだけ……ちょっとだけだから……ね?」


「い、いや……そんなこと言われましても……その……困るんで……」


「何恥ずかしがってるのよ。ほんの少しだけ。少しだけ剥いてくれるだけでいいの……あなたのが見たいのよ。……ね? お・ね・が・い♡」




 そういいながらおもむろに自分の胸を寄せて谷間を見せつけようとするところで俺は妃乃里の頭を叩いた。




「いったぁ~い!何するのよ、奏ちゃん!」


「何するのよ!の前に何してんだよ、お前は!店員さんが困ってんだろ!谷間強調して一体何をお願いしてんだよ!!!」


「ナニって……ねえ?」


 


 店員さんの方を向いて同意を求める妃乃里。店員さんは顔を赤くして股間の辺りに手を置いている。何か隠しているようだ。


 あんたら、俺が目を離した好きにナニしてんだよ、マジで!!!生鮮食材コーナーのど真ん中だぞ!!!




 ……ん?




 店員さんの股間の辺りをよく見ると、何かを大事そうに握り締めている。隠していたのはそれか。相変わらず顔は真っ赤だが。よく見るとある馬のたてがみのような黄色い毛の束が見える。見覚えがあるぞ。それをよく見ようと店員さんの股間を様々な角度から覗き込むと、皮を被ったとうもろこしがそこにはあった。

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