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妃乃里と買い物①

 水色のシルク生地のパンツ―――パチッ、パチッ。

 黒いレース生地のパンツ―――パチッ、パチッ。

 白で中央上部に小さいピンクのリボンがついているパンツ―――パチッ、パチッ。


 全て俺がさっき桶に張ったぬるま湯の中で丁寧に洗ったものだ。

 俺は毎日と言っていいほどに洗濯をしている。特に下着類は。あの女達が着けている下着はそこはかとなく値が張るもので、高級品というにははなはだ言い過ぎだが、下着業界全体で見るとちょっとばかりランクが高いなため、長持ちさせるにはそれなりの手入れをしてやらないといけない。妃乃里と沙紀のブラのカップサイズはGとEなので、種類が他のカップよりも少ない。その少ない中で二人の心を満たすブラを探すのは本当に苦労が絶えないのだ。それを思えば、下着を丁寧に洗うことなどどうということもないと思ってしまうが、下着を洗うにあたり、生地を傷めないようにお湯の温度管理、洗う強さの調節など非常に気を配らないといけないあたりが非常に厄介だ。もはや貴重品として取り扱う必要がある。

 結奈に関してはそこまでこだわりがない。穿ければなんでもいいやと言ってくれそうな感じだが、まだ言ってもらえてない。でも文句を言われた記憶はあまりない。下着の選り好みに関して言えば、買ってくる側としては結奈は優等生だ。もしかしたら、男物パンツを入れておいたら躊躇なく穿くかもしれない。……こっそり結奈の下着入れに真っ白もっさりブリーフを入れておきたくなってきた。今度やってみようかな。全てが明らかになったときは俺の顔が顔という形態を成しているかはわからないが……。

 そんなわけで、うちの三姉妹の好みの下着を探すのはとても難儀するので、今の下着をとても大切に維持していかなければならないわけだ。

 きっと、いや間違いなく彼女らは下着の洗い方など知らない。ぬるま湯の中で両手で手もみ洗いする苦労を知っている訳がない。ぬるま湯と言ってもやっぱりぬるま湯だから長い時間手を入れておくと寒くなってくる。体温が奪われている感じがする。

 洗った下着をタオルに挟んでやさしく押して水分を取り、洗濯ばさみがついているハンガーで干す。 そうして乾いたものを今俺はたたんでいる。本来なら女子が知っておいた方がいいことであろうに、俺ばっかり知っているこの現状はいかがなものなのだろうか。高性能な洗濯機を使えば劣化させることなく丁寧に仕上げることができるのかもしれないが、きっとあの人達は洗濯機の回し方さえ知らないだろう。

 こんな状態じゃいつまでも嫁になんて行けるはずもない。もう本格的に本腰を入れて花嫁修業をさせなければならない気がする。一刻も早く、自分の時間の確保に努めなければ俺の未来は真っ暗だ。

 はぁ――とため息をつき、すでにたたみ終わった下着達を見る。

 この草食男子が幅を利かせているご時世でこんな真っ赤なTバックだったり紐パンだったりと、いざ交わらん!というときにスカートの中からこんなエロ上級者が身につけそうなものが出てきたら、男たちは引いてしまうこと間違いなしなんじゃないだろうか。清楚なイメージの人が実際はこんなの穿いてたなんて知った時には、そういうパンツを見慣れている俺でもその後の言動に躊躇してしまうことは想像にたやすい。イメージというのはとても重要なのかもしれない。

 であれば、本人のイメージと穿くパンツの種類は、釣れた魚を逃がさないためにもしてなるべく近いものにしておくことが必要だ。ベッド上の交わりは男女にとって関係を築いていく上での重要なファクターの一つらしい。つまり、その開幕時にいきなりどん引きされていては元も子もないのだ。自分のイメージにあった下着を穿いておくことが大切だろう。

 しかし、男側にもそれぞれ個人の趣味趣向というものはある。優しげな、仏レベルのメンズがもしかしたらどきつい真っ赤な紐パン派かもしれない。Tバック派かもしれない。ともなるともう相手にどんなパンツを穿いている女性が好きかと直撃取材をするしかない。

 ……もういいや。考えたらきりが無くなってきた。早く次の仕事に取りかかろう。

 俺はたたんで仕分けし終わった洗濯物を姉達の部屋に運ぶため、持ち上げる。


 …………。


 そういえば、生パンツを洗濯すると、何パンツになるんだろう。


 ……はっ! そんなことどうでもいいわ。やることはたくさんあるんだから。

 俺は三人の部屋にそれぞれ運び込むためせっせと二階へと移動した。

 洗濯物を三人の姉の部屋に何事もなくしまい終わって、フゥと気を緩ませて一旦自分の部屋に戻る。

 すると、そこにはベッドの上に寝っ転がり、俺の月一の楽しみであるスポーツ雑誌を枕元に置いて開き、俺より先に読んでいる妃乃里がいた。

 看護師の制服姿で。

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