悩み相談室⑨
学校から少し離れたこの街で一番栄えているエリアにくりだす。
大きいビルが建ち並び、その中には有名なコーヒーチェーン店など聞き覚えのあるテナントがたくさん入っている。
放課後なので、高校生だろうか、学生の集団が多くみられ、女子が甘いものを食べて「生まれてきてよかった」という感情が全面に顔に出ている。
ほかにも男女がじゃれあってはしゃいでいたりもする。
男女比が4:3というありがちな配分の集団がいた。
女の子はスカートの裾を上げて足を出し、アイメイクもばっちりして戦闘態勢である。
見てるとボディータッチが激しい男が一人いる。
一ミリの狂いもなくイケメンにカテゴライズされる顔だ。
リーダー格なのだろう。
女の子達の目線はこのイケメンに注がれている。
みんなこのイケメンねらいなのだ。
ボディータッチを自然にできるイケメンのことがうらやましすぎてしょうがないという苦悶の表情を浮かべる男が一人、いつものことだとスルースキル全開の男二人で構成されている。
このスルーしている男達は、イケメンに群がってくる女の子たちのイケメンの寵愛をうけることができない子を狙っているのだろう。
朝、固めのワックスで1時間くらい鏡とにらめっこしてたんじゃないかというくらい、いや、カツラなんじゃないかと思うくらいの風でびくともしないマンガの主人公みたいな髪型をしている男一人と、それとは反対の何もしない自然ヘア。
これは典型的ないわゆるハイエナ戦法である。
スーパーイケメンと友達ということで自分の評価が通常よりもぐんっとあがる。
そしてイケメンと付き合うことができる女の子は1人しかいない。
イケメンと付き合えなかった子は、妥協してその取り巻きのメンズに目を向ける。
すると、嫉妬している男はさておき、あとの二人でタイプを両極端にしておき、どちらかに意識を向かせるというもの。
その結果、かわいい子と付き合うことができるらしい。
これはとにかく学校での自己価値をあげたがりガールをハイエナゲットする場合に有効らしい。
ちなみに、すべてうちの長女の妃乃里の受け売りである。
「ギャルが好きなんだね」
「……なに?」
スマホを見ながら三上が言った。
「強引に女の子を外に連れ出しておいて~、横に私という女がいながら~、他の女の子を見るなんてどうかしてる~」
「おまえはどの立場からそんな発言してんだよ。おれの隣にいるのが嫌なのか彼女面なのか」
「そんなの……どっちでもいいじゃない」
「は?」
「私が女であなたが男というだけ~。それ以上でも以下でもないの~」
「……何言ってんだおまえ」
なんだ。
急にどうした。
なにもじもじしてんだ。
もしかしてこいつ……おれのこと……。
「事実じゃない。私が私であなたはあなた。そしてその二人が今こうやって一緒にいる現実……ただそれだけなんだから~」
これ以上ない気だるい口調でなんてこと言い始めるんだ。
抑揚の待ったくない口調がこのなんともいえない空気を異様なものへと拍車をかけている。
おれに気がある……のか?
だったらそんなスマホに向かって言わないで、はずかしくて目線はそらすにしても顔はおれに向けていってくれないと……なんだ、返事しづらいだろーが。
「おい、おまえ、どうしたんだ急に。おい、みか……」
『キミが照れているのはその声でわかるよ。キミの声は透き通るように綺麗だから少しの心の動揺も隠せない。ボクはそんなハートフルなキミの声が聞けて最高に幸せさっ!』
三上に近づいたとたん、スマホからそこまで抑揚をつける必要があるのか疑問を呈したいボイスが聞こえた。
『ボクはこの中からでることは決してできないけど……それ以外ならなんでもできるよ。キミが元気がないときに励ましてあげられるし、こうやっていっしょにお出かけする事だってできる。なんだってできるよっ!』
「いやそれしかできねーだろ」
『ん? 急にキミ声が変わったみたいだけど……どうしたの? 風邪ひいた? 大丈夫?』
画面の中には制服を着たさわやか男子が目を潤ませて心配する表情を向けていた。
「ちょっと、何するのよ~。せっかくのデートじゃましないでよ~」
「おまえがさっきから意味深な発言ばっかりしてっから」
「え~、なに~、奏陽くんに言ってると思ったの~? 期待してたの~? ふ~ん、そうなんだ~。残念でした~~」
プチッ。
「あ、ちょっと~返してよあたしのスマホ~」
おれは頭にきて三上のスマホをとった。
そしてさわやか男子と対峙する。
見れば見るほどむかついてきたため、顔を叩いた。
『いたっ! 痛いよ。ボク、なにかキミを怒らせるようなことしたかな』
しょんぼりしているのはお構いなしにおれはボクサーの最後のたたみかけのラッシュ時のように怒涛の連打をする。
『あ、ちょ……そこはだめだって』
股間にあたったようで、股間を手でふさぎながら怯えた顔をしている。
おれはウサ晴らしするようにお構いなしに集中砲火を浴びせる。
『いたっ! いたいよ! そこはだめだって。痛いって! ああっ!』
画面の中のイケメンは股間に手を添えて女の子座りして泣いていた。
「奏陽くん、さいってい!」
「ぐはっ!」
三上に腹をなぐられスマホをとられた。




