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悩み相談室⑤

「ふーんって、それだけ?」


 不機嫌になったのか、腕を組んで背もたれに寄りかかり、目を細めて三上に鋭い視線を浴びせる。


「あー、んー、えっとー、その人はこの学校の生徒なのー?」


「そうよ。でも全然向こうからのアプローチがないわけ。ねえ、どう思う?」


「……うーん」


 三上は頭に手を当てて少しうつむき、顎を親指と人差し指でつまみ考えているポーズを取る。

 おそらくだが、今三上の頭の中には、藤林がただ単にその意中の男につきまとってるんじゃないか、つまりストーキングをしているんじゃないかという懸念、というか十中八九そうであろう推測がうごめいているんじゃないだろうか。いや、誰が聞いててもそう思うよ。


「うーんじゃなくてさ、早く答えてよ。悩み解決してくれるんじゃないの?ここは」


 少し強い口調で言われ、三上はむすっとして顔を上げる。


「相手からこないんだったら自分からアプローチすればいいんじゃないの?」


「は? あたしが? まじで言ってんの、あんた。嫌よ。ありえない」


「…………」


「なんでアタシが男にしっぽ振らないといけないのよ。このアタシが!」


「……さようですか」


 すでに心の中でしっぽ振ってるじゃねーか。でもそれを悟られないようにして近づきあの手この手をつくして最終的に告白させるというのが女子の恋愛戦略の1つなのだろう。うちの姉共は男に対してそんな繊細な行動はとらないような気がするが……どうなんだろう。今度聞いてみるか。


「そうよ。覚えときなさいよまったく。そんなことよりどう思う? どうすればアタシにアプってくると思う?」 


 自分に自信がありすぎて、相手が自分に対して興味が無いという考えはないようだ。

 とても「その人、他の人が好きなんじゃない?」なんて言えたものではない。

 自分に興味があることが前提であり、当たり前なのだ。

 おそらく藤林にとって俺も藤林に興味があるということになっているんじゃないかと思う。

 「全ての男子は自分に興味がある」なんていうセリフをそのうち吐きだすんじゃないだろうか。


「さぁ……それは本人に聞いてみないと」


「じゃあ聞いてよ。本人に」


 淡々と図々しく要望してくる相談者に三上は苦笑いを浮かべる。


「いやー、そこまではちょっとー。あくまで悩み相談だしー」


「だから相談してるんじゃん。てかさ、あんたこの仕事任されてんでしょ?ちゃんとやんないならさ、あんたを来年会長に推してやらないわよ。アタシの一声であんたへの票を増やすことも減らすこともできんのよ」


 藤林は腕をくみ、勝ち誇った表情を三上に向ける。

 すると、三上の目も鋭くなり、藤林をに睨みつけた。

 これまでのやりとりでなんとなく感じていたが、そんなに特別仲良がいいというわけではないようだ。

 1睨み効かせた三上は、表情を整え、いつもの相談を受けるときの朗らかな顔になった。


「では見てみましょうか。その人が今どこで何をしているのかを」


「え?!」


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