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悩み相談室②

 『悩み相談室』――その運営事務を生徒会とは無縁の俺が任されているという学園七不思議にはぜひとも入れていただきたい、少なくとも全俺の中ではトップ3に入る事態に俺は苛まれている。本来ならこんな雑用、突っぱねたいところだが、諸事情により断ることができないでいる。そこの経緯については長くなるから今深掘りしないこととしよう。

 この雑務に携わってしばらく立つが、相談者がいない日はない。たかだかほぼ同い年のJKが話を聞いてそれっぽいことを言うだけなのだが、それを知っている上で来ているのだからわらにもすがる思いなのだろう。その相談を受けるJKというのは、2年生生徒副会長の 三上のあ である。

 同級生だがクラスは一緒になったことがなく、ここでの関係が俺と三上の関係性の全てだ。俺が知っていることといえば、副会長に抜擢されるほどの学年トップレベルのハイレベルな頭脳を持っていることと、それなりにかわいいといえばかわいく派手ではない、かといって優等生というほど優等生オーラがない。一言で言えば、親しみやすい優等生寄りの普通の子といったところか。あとぐーたらレベルが高い。

 なぜ2年生なのに生徒副会長なのかというと、この学校の規則に、副会長は2人を選出し、そのうち1人は下級生から選出することとされている。これは、三年生の独断を阻止し、生徒たちの意向を万遍なく吸い上げて、風通しのよい学校にしようというねらいがあるらしい。そして、この悩み相談室は、学校の悪の根源である思春期特有の心情のゆがみを排除すべく生徒会自ら開いたものであり、それを担当するのは下級生の副会長の役目とされている。

 今、その担当者はというと、部屋の中央にある相談者が座る椅子から3mほど離れたところにある長机に片肘をついてそこに顔を乗せ、そっぽを向いて片側のほっぺたを膨らませながら機嫌悪そうにを目を座らせていた。丸い顔がさらにまるくなってバレーボールみたいになっている。どうやら今日も不機嫌なようで、その証拠にちょっとでも押せば口から空気が抜けてしまうであろうくらいにぱんぱんに膨れている。顔をすっぽりと覆うショートカットがなおさらその丸みを際立たせている。

 そんなブサイク面、もとい不機嫌面の様相の前に相談者を座らせるのは少し気が引けたが、変なめがねかけて黒いマント羽織ってるただの受付の人がそこまで情をかけるのもおかしいので、淡々と仕事をこなす。

「副会長」

「…………」

「相談者がいらっしゃいましたが。というかさっきからいらっしゃってますが。いい加減に反応してください」

「…………」

「3-A 神詰えりなさんです」



 三上はだるそうにゆっくりと姿勢を正面に戻す。その間にほっぺの膨らみを解いたのだろうか、ぱんぱんに張っていた顔が正常に戻っており、むすっとはしていないが目がすわっている。


「なんでしょーかー」


 だるさを思う存分に込めた第1声を言い放つ。放たれたその言葉は相談者にマイナス印象を与え、俺には

多大なヒヤヒヤ感を与えやがる。


「あ、あの……ここに来れば大丈夫って言われて来たんですけど」

「だいじょーぶなんてことはこの世には一切ありませーん。いかなることでも状況は秒単位で変化していくのですからー」


 迷える子羊にとんでもなく元も子もないことをいい放ちやがった。やはり今日の三上はとてもご機嫌斜めのようだ。聞いた相談者はびっくりした表情をして固まっている。


「相談はなんですかー」


 今にも寝だしそうな眠たい眼で相談者を見る。見るというか、目を向けているだけといったほうが正しいか。


「し、将来が不安なんです」

「将来に不安を持たないのはロボットくらいのものですがー」

「あ……はい」


 おい、相談者が恐がって俯いちゃったじゃねーか!泣きそうだぞ!どうすんだこの状況。このままだとこの件が会長の耳に入って怒られるのは俺なんだぞ!三上!!!


「副会長はもっと具体的にとおっしゃっています」

「え? あ、はい」


 相談者は後ろから声をかける俺に驚き、びくつきながら振り向く。さっきのは心の叫びに留めておき、な

んとかして事態の収拾に図る。


「あ、あの、一生懸命やってるんですけど、なかなかそのうまくいかなくて、その成績もよくなくて、どうすればいいかわからなくて……」

「わたしはなおさらわかりません」


 正直ごもっともです、副会長。しかし、ここに来る子羊にはもっと優しく接してあげないと。悪化させるだけだ。


「副会長、これが提出していただいた資料です」


 俺はアンケートと一緒にもらった通知表を三上に渡した。それを時間が経つとともに閉じていく目でわずかに開く瞼から覗くように見る。


「こんなアヒルがゴルフ場まわってるような絵を見せられても」


 おい!なんていうことを言ってくれんだ!

 通知表は2と1のオンパレードで、確かに1をホールに見立てればアヒルが行列をなして歩いているようにも見えるけどーー。


「いてっ」


 俺は透明な輪ゴムを相談者には見えないようにこっそりと三上に打ち放った。


「絵じゃないです。通知表です」


 そういいながら三上に近づいた。


「もっとしっかりやれよ三上」


 相談者から隠れるように通知表を隔てて小声で注意する。


「だってぇ~、もうめんどくさくて~」

「お前がしっかりやらねーからなぜか俺がここによこされてんだぞ。貴重な放課後タイムをおまえのぐーたらな仕事っぷりのせいで献上させられてんだ。元通りちゃんとやれよ。てかやってくれまじで」

「え~~、もうめんどくさくて~~」

「隔週イベントの卵激安市に行けないんだぞ。どうしてくれんだ」

「え~~、じゃああたしが産むよ~~」

「あほか!」

「いてっ」


 さっき飛ばした輪ゴムがそばに落ちていたのでそれを指で広げておでこにつけながらゴムだけ伸ばしてはじいた。


「これ以上だだこねるんなら全て会長に報告するからな」

「会長に……」


 恐怖一色と言ったところか。顔色が一気に険しくなる。


「……わかった。やる」


 三上のほぼ閉じていた瞼がすっと上がった。

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