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悩み相談室①

「次の相談者、中へどうぞ」

 俺は部屋の外で待っている生徒達にそう伝えた。学校が終わって終業時刻はとっくに過ぎているというのに、お気に入りのスーパーは今日が卵の特売日であるというのに、俺はまだ教室から出ることができなかった。


「……お願いします」


 ドアノブの金属音を鳴らしながらゆっくりと1人の女子生徒が入ってきた。手に1枚の紙を握っており、それを俺に渡す。それは、待ち時間の間に書いてもらったアンケート用紙だった。そこには名前、クラス番号、悩み事が書いてある。社会的な個人情報ではないが、他の人に知られれば学校生活を脅かされないプライベート情報が書かれている事もある。取り扱いは慎重を期さねばならない。


「中央にある椅子へどうぞ」


 部屋の中央にある椅子に相談者を誘導する。暗いオーラを全身に纏う相談者を見ていると、気分が重たくなってしょうがない。しかしこんな奉仕活動、いや、慈善活動のようなことを俺がしているなんて知られたら、なんでもやってくれるすごく優しい人、都合のいい人みたいにカテゴライズされて、つかいっぱしられでもしたら困るので、一応変装している。黒く鳩でも出てきそうなシルクハットに、思わずザマス口調をしてしまいそうなマダムに似合う縁の尖った光沢のあるだて眼鏡、そして黒いマントを羽織るというまるでどこかの月光仮面のようだが、決して俺の趣味ではないことだけは言っておこう。ちょうどこの部屋にあったダンボール箱の中に演劇部のものであろう代物があったからちょっと拝借しているだけなのだ。

 女の子が部屋の中央に置かれている椅子に座る。俺はその横で、目の前の長机にひじをついて悪態をつき、目の据わった活力のかの字もない人に向かって言う。


「三上副会長、新たな相談者がいらっしゃいました」


 俺は低めの落ち着いた声でそう言った。


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