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辻橋女子高等学校@生徒会室⑪ ― ♂、ω、orz

「2点よ。2点ですとも! 2点ですからに? 何か文句でもおありでしょうか?! ちなみに私は大有りですけれどもね。あれだけ自信があった分野をことごとくバツにされるのはこれほどまでに悔しさで心が溢れかえるなんて思いもしなかったわよ」




 キョロキョロしている自分がいかに人間らしいかとしみじみと感じられたころに、瑛がそんな俺になぜか明らかにヘイトのこもった眼光を放ったのち、沙紀に向かってヒステリックに言った。先程までのご機嫌この上ないゲリラディナーショーからうってかわって、地震雷火事親父にもう一つ付け加えられそうなくらいのドメスティックな逆鱗が部屋を占拠する。中ニが高三に、しかもエスカレーターで上がる先の高校の生徒会長によくそんな強気な態度とれるなと思ってしまうが、この学園全体を統べる理事長の子供ということを思い出すと、納得せざるを得ないなと思うと同時に、やっぱり人生は生まれた時点で決まってしまうのだと大きく腑に落ちてしまうのだった。この子たちはこの学園では実質無敵なのだ。生徒会長はもとより、いかなる教員であってもこの子達には敵わないのではないか。




「……文句はない。が、用件はある」




 今の感情丸出しの返答になんらひるむことなく、淡々と話を進める高等部生徒会長を見て、少しばかりかっこいいと思ってしまった。偉大な姉とまでは思いませんがね。




「用件? まさか説教でもしようというのかしら。そんなことしたら私たちのママが黙ってないんだからねっ!」




 頭の上の方で左右で束ねているところが動物の耳のようなシルエットにみえる。腕を組んで頬を少し膨らませプイッとそっぽを向く姿は、年下というのも相まってかわいいと言わざるを得まいて。




「そのマ……理事長から頼まれたのだ」




「はぁ? ほんとに説教する気なの?」




「いや、説教ではないのだが」




「じゃあなんなのよ」




 腕組みをしながら可愛らしい顔にしかめっ面を貼り付けて、瑛は沙紀がどことなくいいにくそうに口ごもるのを見ていた。




「その……なんというか……‘男’を教えてやって欲しいと言われた」




「なっ……!」




 瑛は驚き、少し体を後ろにそらした。その表情が面白かったのか、美依が「あはは~。その顔面白ーい!」と楽しそうに目を丸くした瑛を撮影している。この無邪気さがなければここの空気はもはや死んでいたよ。きっと。




 沙紀はおもむろに上着のポケットから折りたたんだ紙を取り出して広げた。A4くらいの紙で2枚くらいありそうだ。




「最後の大問のテーマは‘男’についてだそうだが……ふむ、2人とも答えは埋めているようだ」




「……ん? え、ちょっと待って会長。それってもしかして……」




「ああ。君たちの答案用紙だ。正確に言えばそのコピーだが」




「なんで会長がそんなもの持ってるのよ。犯罪じゃないのっ?!」




 瑛が会長に満面の怒りをぶちまけた。美依はその様子も面白いようで、パシャパシャと特ダネに群がるスクープ記者のように連写している。




「私はもらっただけだ。君たちの母親からな」




「ぬぁっ……?! 一体どういうことなのよ、全くもう!」




 確かにどういうことなのか、どういうつもりなのか。自分の子供の答案のコピーまで用意するなんて普通とはとても言いがたい。




「問いは全部で五問ある。一問目は覚えているか?」




「確か『「おとこ」と読む漢字で3つ書け』よ」




 男、漢、……あれ? あとあったっけ。意外に難しいじゃないか。




「そうだ。その第1問なのだが、2人はというと……」




「私は2つ正解したわ。そのはずなんだから。そこでとれた2点なんだからっ」




「そうだな。男、漢は正解している」




「もう1つは何書いたの~?」




 瑛は苦悶の表情を浮かべて美依を見たのち、俯いて言った。




「……ひょっとこ」




 へ?




「ひょっとこ……? ひょっとこってあの毛穴が大きくて髪がない人~? どうしてひょっとこ~?」




「響きが似ているじゃない。それにどう見ても男でしょ。淑女にはとても見えないわ」




 ……いや待て。


 ツッコミどころが多すぎる。


 まず毛穴が大きい人ってなによ。どういう表現なのさ。


 「ひょっとこ」はまあ生きていれば一度は目にしてしまうものだとは思う。表情は千差万別だが、最大の特徴は口をとがらせているところであろう。そして、その美依の言う毛穴というのは、おそらく――おそらくの域を出ない推測中の推測だが、きっと水玉の手ぬぐいを頭から顎にかけて巻いているがゆえに、その水玉が毛穴に見えているということなのだろう。そしてそれが毛穴に見えるならば、それはすなわち髪がない人となるわけだ。確かに結び目に気づかなければそう見えざるを得ないわな。




 そして瑛。


 確かに女性に見えないけどさ。ひょっとこはひょっとこであってひょっとこ以外の何物でもないわけで、何より漢字ではないよ、お嬢さん。




「そういう美依は何書いたのよ」




「ん~なんだっけな~、忘れちゃったぁ」




 頭に手を置きながら舌を出す姿は、その若さと相まってすごくかわいらしく見える。




「美依の答案には……「♂、ω、orz」と書いてあるな」




「ふ~ん。さすが美依ね」




 …………ふーん。


 いや、まってまってまって。


 それ、記号ですからぁぁぁあああ!!!


 「書いた」じゃなくて「描いた」だからぁ!!!


 しかもチョイスがよくわからない。最初のはもちろんわかるが、2番目のは……うん。とりあえず何それと言っておく。そして最後のもなぜそれを感は拭えるものではない。




「どうしてこの答えになったんだ、美依」




 会長はいつもながらの色のない視線を投げかけた。

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