辻橋女子高等学校@生徒会室⑩ ― 有終の美顔
「前回の定期テスト、結果はどうだった?」
二人は顔を見合わせる。区別のできないヒヨコがお互いを見ているとまでは言わないが、双子がこうして見つめ合っている様子を見るとなかなかな物珍しさを感じる。それこそ写真を撮りたいくらいに。
「……まあ。いつも通りだったわ」
少し考えこみながら瑛が浮かない顔で言ったあと、美依は「楽しかったー」と姉のとは全く違う反応で返してきた。
楽しかった? テストが? テストにそんな感情が湧いたことなど皆無だ。
「……そうか。では保険体育に限定したらどうだ?」
沙紀の問いに対して、双子の表情は正反対な反応を見せた。一方は苦虫を噛んだような顔つきになり、もう一方は相も変わらずの愉快さを保っている。
「75点だったよぉ〜。めずらしい数字だった〜」
めずらしい?
「確かにめずらしいな。美依はいつも三桁のイメージがあるが」
「そーーーなの! 1と0以外は見たことなかったからびっくりしちゃって!」
きっと今俺の目を見たら、卓球の球とそっくり交換できるくらいに真ん丸に見開いていることでしょうよ。下手すれば瞳孔が開いてるまである。
いやだって! いつも三桁とか、1と0以外見たことないってそれ・・・100点以外取ったことないってことでしょうが! 嘘でしょ? 申し訳ないけどそれは100%母親が関与しているとしか思えませんですけども? それともそれほどに天才とでもいうつもりかね。
「ふふ……ふふふふっ……」
美依が天才かどうか、こんなほんわかさせている少女が、仮に答えを聞いていたとして、それを全部覚えられるのか疑問の余地がありすぎる―――つまり天才か? とか考えていたら、その横から不気味な笑みが聞こえた。そして急に席を勢いよく立ち、踊り出した。
「ふふふ……何を隠そう! いや隠すことなんてない、堂々と胸を張って言えるわ。こんなに素晴らしく素敵なこれ以上最高の響きの点数なんてありはしない! 私の点数はー、七十~…………七、点……よ」
ドヤ顔がドヤ顔過ぎてもはや清々しささえ感じてしまうくらいの、言うならば「有終の美」顔とでも言おうか。まるでミュージカルの一場面を切りとったみたいだ。
確かに77は魅力的な数字だ。7が揃えば揃うほど数字的には見応えがあるし、ラッキー感はこの上ない。でもだからといってこんなに大げさに喜ぶものだろうか。この子の事をよく知らないからもしかしたらこれが通常モードなのかもしれないが、でもこんなおおげさによろこぶほどか?
「2つしか数字ならんでないの〜むぅ」
「まぁたまにんじゃないかしら。いつも100点じゃつまらないでしょ。同じ数字ばかりで。たまには姉の後塵を期するということも経験しておいて損はないのではなくて?」
今にも高笑いしそうなのを必死で押さえているというのが顔の全ての細胞が表している。
なるほどな。なんとなく見えてきたぞ。つまり、美依はいつも100点しか取ったことがない。瑛はそうではない。いつも負けていた。しかし今回の保険体育のテストで初めて瑛が美依に勝てた。そのうれしさのあまりこのような小躍りする事態に発展したというわけだ。きっとそういうことなのだ。
……なんだ、かわいいじゃねえか。
「まあその辺にしておこう。でだ。そのテストは大きく4つの分野で大問が作られていたはずだ。その最後の大問に限ってはどうだ?」
「最後ぉ?」
美依が口元に人差し指を当てて思い出すように斜め上を向いた。
「あ、美依はそこは全部斜めの棒線があったような気がするぅ。丸じゃなかったよ。先生が丸にするの飽きたのかな?」
「いや、棒線は間違っているということだ」
「え、そうなの? あまりみたことないから意味がわからなかった。じゃあ美依は一体何点なのぉ?」
「0点だな」
「れ、れい点……? 0が1個ってことぉ?」
「そうだ」
美依はよくわからないといった表情をしながら沙紀に問いかけた。
俺はその横から物珍しい小動物でも見るような目つきでそのやり取りを見ていた。
「それってつまりぃ、ゼロってことだよね? ゼロ点……! なんかかっこいい響き! いいね、いいね!」
反応がおかしいのは言うまでもないが、大問単位にしろ0点というのは誰にとっても悲しいお知らせであり決して笑顔はでないはずなのに、可愛らしく楽しそうな顔つきをこうして拝めるのは、この子が常人には持ちえない思考回路の持ち主といわざるを得ない。
「瑛はどうだ?」
………………。
……え? えっ?
生きてるよね? この人たちロボットじゃないよね? 電池式で動きます人間でもないよね? さっきまでのちょっとしたミュージカル気分を味わえるような空気から一変してこの誰も存在しないかのような無音なにこれ。 美依は楽しそうな顔したままの表情だし、沙紀は二人に問いかけたままだし……。瞬きしてる? 目カピカピしない? ひっからびたからお前の目玉貸してとか言ってきたりしないでよね。
「私は……」
溜息を吐き出すついでに口から洩れたような声が聴こえたや否や、立ち上がってバンッと机を両手で叩きつけた。




