辻橋女子高等学校@生徒会室⑨ ― 僕はロリコンじゃない。鼻の下なんか伸ばしてない。
二人は沙紀が指示した場所に座った。他の学校であれば木製の椅子、良くてパイプ椅子であろうところ、背もたれにまで弾力性を備えたインテリア性高めな椅子が備わっている。他校の生徒がそれを見たら座るのに躊躇するのは目に見えているが、この二人は何のためらいもなく、それはもう上品にお座りになられた。踝まであるドレスチックなロングスカートを丁寧にいたわりながら座るその姿に、まさにここの生徒という印象を持った。中学生でここまでできれば上出来ではないだろうか。背筋も伸びており、身振り手振りも上品さ、優雅さを感じさせる。どこに出しても恥ずかしくない、むしろ相手が物怖じしてしまうくらいまである。上品という名の暴力ということもできるかもしれない。
でもこれだけしっかりと身に沁み込ませているのを見るとそれだけちゃんとしたお嬢様教育がこの学園でなされているのだろうと思うが、そう思えば思うほどとある疑問が生まれてくる。その頭髪に。
いいの? いやいいんでしょうね。中等部の副会長って言ってたし。それになんたって理事長の娘だし。この学園の全生徒の見本になるような立場だし。それが意味することは、理事長公認ということだろうから。ということは学園的にこれはOKということだが……あぁ、あったわ。書いてあった。綺麗な習字でこの生徒会室内上方に額縁飾ってありますわ。『人尊己放』と高いところから我々を見下ろすように飾ってありますわ。きっとこれがこの学園のスローガンなのだろう。非常にわかりやすくていいのではないか? 誰がどう見ても『他人を尊重し、己を解き放て』的なニュアンスの認識になる。きっとそういうことだ。つまり、やることやっておけば、何してもいいよということか。なんだ、いい学校じゃないか。
沙紀は高等部からの入学だが、もし中等部からこの学園に入園していたのなら、このごっちゃりした制服を着ていたということになる。ちょっとばかしこれを着た沙紀の姿を見てみたくないわけではない。というのも、見方によっては少しロリ目感もあるため、堅物の沙紀が着たらどうなるのだろうという、あくまで好奇心の範疇を出ない心持ちだ。そういうことだ。
「何がおかしいんだ?」
「……エ? 何がですカ?」
突然の棘のある声に驚くと共に、未だになれない自分の発するいつもよりも高めな声にも不意打ちをくらう。
「二人が来るや否や、顔が呆けだした。今に至っては鼻の下が伸びきっているぞ」
……なんかすごい顔が怒ってるんですけど。怖いんですけど。顔が。 とりあえず私は会長の今の発言内容に対して全面否定します。なぜなら、中学生二人が来てから顔が呆けたなんていうことがあろうものなら、それはもうロリコンじゃないですか。ロリコンですよそれは。ロリコンの定義がいまいちよくわかっていませんが、とりあえず年下の子を見てその好意を顔面に示すというのは、ロリコンと言えなくもないはず。だからロリコンですそれは。でも私はロリコンではないので、つまり私の顔は呆けてなどいません。 次に鼻の下が伸び切っているということについてですが、それもありません。なぜなら、鼻の下が伸びるということは、それは顔の筋肉が完全に弛緩している状態、伸び切っている状態、つまり、呆けている状態を示しています。しかし私は顔を呆けさせていないため、結果、鼻の下は伸びていないことになります。はい、論破。
いや、もしだよ? もし仮に呆けているような顔に見えたとして、だ。そんなことを認めるわけにはいきません。言われた直前に何を考えていたかと言えば、それは沙紀のことであり、沙紀が瑛と美依が着ている制服を着ていた場合を妄想していたわけで……だから認めるわけにはいかねーよ、絶対。だいたい呆けてないし!
「そんなことはありませんヨ、会長。目の錯覚デス」
「なんだそれは。まるで私の目が腐っているとでも言いたいような言い草じゃないか」
「いえ、そんなことはありまセン。言葉の綾というものデス。会長の目は産まれたての卵を割ったときの新鮮な黄身のように光り輝いてイマス!」
「なんて人なのかしら。私たち、これからこの国を背負っていく淑女となるべく学園で学ぶ者に向かって卵と比べるなんて。とんでもない方ね」
「要は私の目が腐った卵のようだと言いたいのか。よほど命知らずと見える」
完全に俺の比喩チョイスが仇となっている。なんなんだこの二人。組んでるのか? 組む相手間違ってるだろう会長! あんたの手伝いをするために俺はここにいるんですけど? どうすんのこの空気。変えれるの? この状況から二人に性教育できるの?
「まぁまぁまぁ~、みんなそんな寄ってたかって言うことないんじゃな~い? せっかく海外から来てくれたんだから。まだよくわからいことも多いのだろうし~。ねぇ?」
美依が俺と二人の間に立ってかばってくれた。ねぇと言いながら俺の方を振り返ってくれるその笑顔、まじ天使過ぎて顔が惚ける。
「……まあいいだろう。時間もないことだし、本題に入ろうか」




