とんでもない女②
「ジャージ専門の?」
『いや違うし。なんだジャージ専門のおしゃれな服屋って。ジャージにリボンとか花とかついてんのか』
今日はいつになく饒舌な賢吾。ご機嫌のようだ。
『まあとにかく聞いてくれ。俺の今後の人生がかかってんだ』
「わ、わかった」
賢吾が大げさな言動をする度に俺の中のどうせそうでもないんだろ感が高まっていくのはなぜだろう。今のところ、そこまで重い話には聞こえないけど、もう少し耳を傾けるとしようか。
『あいつ……服屋に行くと、わき目も振らずに試着室に入ったんだ』
「ああ、なるほどね」
『なにがだ?』
「いや、着替えを持ってきてたのかと思って。そこでかわいい服に着替えたんだろ?」
『それならまだアリだが……あいつ、中に入ってカーテンを閉めるとどっしりと尻もちついて座りやがって、ぱんぱんに詰まったポケットからお菓子を広げだしたんだ』
「……えぇぇ」
なんて言ってみようもなく反応も満足にできない中、賢吾は続ける。
『そしてあいつは言うんだ。「あたしに合う服持ってきて」と』
つまり他の女の子が服を見ている店内をゴリ男もとい賢吾に自分が着る服を選びに行かせ、自分は試着室の中でお菓子を貪って待っているということか。確かにそれはとんでもない。
『しょうがないから選んでやったんだ』
選んだんだ!
『すごく細い目つきと冷たい視線、そこにひそひそ話をプラスした俺包囲網に囲まれながらそれを耐えて選んで持ってってやったんだ。そしたらあいつ、手招きして俺を試着室に招き入れるわけ。まるで自分の部屋のように』
「……へえ」
『お菓子が散らばっているのなんてお店の人に見られたらなんて言われるかわからないから早くカーテンを閉めようと思ってしょうがなく入ったんだ』
それもそれで何言われるかわからなそうだけど――。まあいいか。
『そしたら菓子食べるのやめて、なにするかと思ったら両手をまっすぐ上にあげんだよ。「なにしてんだよ」って聞いたらよ、あいつなんて言ったと思う?』
「う~ん、……着替えさせろとか?」
俺がそう言うと、横で賢吾が目をおっぴろげて立ち上がった。
『お、おまえ、もしかしてわかるのか……? あいつの気持ちが!!!』
「え、なにが。いや、その流れはそうかなと思っただけで……もしかして当たったの?」
『……そうだ。正解だ』
当たっちゃったんだ。その子の気持ちわかっちゃったんだ。これも三人の傍若無人な姉と生活してることの効能なのか。いやいらねーわ。こんな効能。




