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3ている:【娘ねこ】と出会いとご主人さま

神社の手伝いを終えた深夜、再び降り始めた雪の中を家に向かって歩いていた。

常識で考えれば正月や神社に行くなんてことは許されないのかもしれないが、

親友はそんな事は微塵も気にせずこう言い放った。


「ウチの神様が、お前をほおっておけなんて言う神様だったら、こんな神社なんか潰してやる」


その言葉に親友の両親もニッコリとうなずいてくれた。

おかげで年末から正月が明けるまでいつもと同じように過ごすことが出来た。

違っていたのは、帰り際に親友であり、神社の息子の清明が言った言葉。


「京雅、なんならウチに住んでもいいんだぞ。 部屋も余ってるし、俺も安心する」


真剣に、そして、言うべきか言わざるべきか迷った末の言葉ということは直ぐに分かった。


「ありがとうな、清明。 大丈夫だ、年末から家に帰ってないし、片付けもしないとだからな……」


「……そうか。 何か手伝える事があれば直ぐに言えよ。 絶対だ」


「ああ、その時は宜しく頼む」


「うむ。 雪も降ってるし気をつけて帰れよ? 次に会うのは新学期になっちまうか」


「そうだな、じゃあ帰るよ。 いつもの事だけど神社の手伝いは慌ただしいけど楽しいな、ありがとう」


「礼を言うのはウチの方だぞ? 毎年毎年本当に助かる、お疲れ様、だ」


「じゃ、またな。 おやすみ」


「おやす、そうだ京雅、明保野にもメール入れておけよ。 多分だが、連絡来るまで寝てないぞ」


「こんな時間だけど……」


「とにかく、だ。 じゃあ気をつけてな、おやすみ」


神社の入り口まで送ってもらい、俺は家に向かって歩きはじめた。

少し歩いてから振り返ると、清明は腕を組んでまだこちらを見ていた。



――――――――――



途中寄ったコンビニで買物をしながら、清明に言われたことを思い出し爽香にメールをした。

流石にもう寝ているだろうと思っていたが、爽香からは直ぐに返信がきた。

どうやら清明の言っていたとおり、起きていたようだ。


『遅くまでお疲れ様。 気をつけて帰りなさいよ。

 あと、何か手伝える事があれば直ぐに言ってね。 しっかり休むんだよ?おやすみなさい。』


帰ってきたメールに清明と全く同じ事が書いてあり思わず苦笑いをする。

(そんな心配そうに見えるのか?)


『ありがとう。 おやすみ』


とだけ返し、再び家に向かって歩き始める。

相変わらず雪は降り続き、真夜中の道路には人気もなく、雪を踏む足音だけが暗闇に吸い込まれていった。

ふとスマホを見るとメールの着信が来ているのに気づく。

清明と爽香からだった。

内容は二人共同じような内容で、これまた思わず少し呆れた笑いがでてしまう。


『明日起きたらメールして来る事!絶対だからね。 おやすみなさい』

『ちゃんと家に着いたか? 起きたらメールでいいから連絡な。 忘れんなよ? じゃあおやすみ』


この二人は……

起きたら連絡しないとな。

程なくして家に着く。

電気がついていなく真っ暗なのは、家族が寝てしまっている訳ではなく、誰も居ないから。

その現実が容赦なく押し寄せ、軽く目眩がする……が、頭を振り気持ちをたもつ。

鍵を取り出しドアノブに手を掛けた瞬間「ポスッ」っとすぐ後ろで雪の上に何かが落ちたような音がした。

木か電線に積もった雪が落ちたのだろうと思ったが、一応確認をしようと振り向くが

見回しても特に変わったところは無く、やはりその辺で雪が落ちたのかと思い

ふと視線を下に向けると足元に雪ではない【なにか】が落ちていた。

少し驚きつつも、しゃがんでしっかりと確認してみる。

その【なにか】は雪のように白い毛並みの小さな猫のだった。

触っても反応は無く、目も閉じっぱなし。

だが、小さな身体が僅かに上下しているようなので、生きてはいるようだ。

寝ているようだが、何故か俺の目にはひどく苦しそうに感じられた。

そっと両手で優しく猫をすくい上げると、ひどく冷たくなっていることに気づく。

(この猫を助けないと)



――――――――――



「んっ……ふぁぁぁ……。 いてて」


リビングで目を覚まし、床で寝ていた身体を毛布の中でモゾモゾと動かして伸びをしながら身体を起こす。

そして、ソファの上で丸まっている猫の様子を見る。

やはり目は覚めていないが、呼吸はしているようで少しホッとする。


雪の中で丸まり冷えきった猫を家に入れ、先ずは部屋を暖めつつぬれた身体を丁寧にふき、

毛布にくるんでソファの上においておいたのだ。

クッションで囲んで万が一落ちないようにも対策は万全だ。

カイロなどを使う事も考えたが、暖めすぎややけどしてしまうかもと考えてやめておいた。


毛布にくるまった猫は、おいた時と同じ格好でそのままだった。

時計を見るとまだ寝てからそれほど経っていない。

とは言え、既に朝なのだが。

夜中に帰って来て、更にこの猫のおかげで寝たのは本当に明け方だった。

身体も痛いのでもう一度ベッドで寝直そうかと思ったが、猫だけソファの上に置いていくのは心配だ。

少し考えた末、毛布ごと猫を部屋に移動させて、ベッドの端っこに配置することにした。

壁側に置けば落ちる心配もないし、俺もそんなにねぞうは悪くないはず……

毛布ごとゆっくりと移動させてベッドに置く。

何かあれば直ぐに起きられるし、様子も確認出来る。

……

……

……

何か声をかけようと思ったが……何度かなでてから、小さな声で「おやすみ」とだけ言って横になる。

つぎに起きた時は、この猫も目を覚ましてくれているだろうか……

毛布にくるまっている猫をもう一度なでて、目を閉じた。



――――――――――



「♪〜〜♪〜」


「ん……? あ、はい、もしもし……」


どれくらい寝ていたのか、スマホの着信音で目が覚め、ベッドに入ったままで電話をとる。


「京? まだ寝てた……? ごめんね」


「あ、ああ、もうこんな時間か……明け方寝直したから……」


「……そうなの……何かあったの?」


「ん……」


一瞬言うのをためらったが、爽香は猫好きだし何かアドバイスが聞けるかも……


「猫を……拾ってさ。 家の前で丸まってて……。 でも、起きなくてさ……乾かして毛布にくるんで寝かしているんだけど……」


「ね、猫? 寝てるって、起きないの?」


「ああ、息はしているから大丈夫だと思うんだけど、目が覚めなくて……」


話しながらおもむろに毛布の方に手を伸ばす。

が、そこにいるはずの猫がいない。


「あれ?」


「え? どうしたの?」


「猫が……え?」


様子を見ようと寝返りをうつように身体を猫毛布の方に向けると、目の前にねこみみが飛び込んできた。

金色のフワフワしたねこみみ……だが、大きい。

普通の猫のサイズじゃない。


「京? どうしたの? 猫ちゃんがどうかした?」


ねこみみの先がどうなっているのか……布団をめくって見る


「!?」


ねこみみがあたまからはえた……おんなのこ


綺麗な金色の髪の毛からねこみみがぴょこんとつきでている。

そして……


「かわいい……」


「き、京!? かわいい? へ? ね、猫ちゃんだよね? かわいい?」

「ちょっと? どうかした?」


淡い幼さは感じられるが、まごうことなき美少女。

ただ、ほんのりと頬が赤く染まり、息も少し苦しそうに感じる。


「今から行こうか、京? 食べるものも無いでしょ……? なにか作っていくよ?」


「……あ」


少しの間迷ってから


「あ、ああ、大丈夫。 すまん、また電話するから一旦切るな」


「え、猫ちゃん……。 う、うん。 ちゃんと電話してね」


「わかった」


「うん。 絶対だよ」


「ありがとう、爽香」


「っ! あ、あ……当たり前でしょ……心配だもん……」


「ありがとう」


平常を装いつつお礼を言って爽香との通話を切り、隣にいるねこみみ美少女が夢でない事を再認識する。

顔の前で両手を軽くにぎった感じにしている姿を見ると、猫っぽい感じがする。


「……もしかして……」


やはり毛布の中に猫がいない。

普通に考えれば起きて別の場所にいると考えるのだが……


「この子、なのか?」


何故かそう感じ、自分でも信じられないが、そのまま受け入れていた。

目が覚める気配は無いが、そっとベッドから出てもう一度しっかりと見直す。


フワフワした金色の髪、そして髪のあいだからピンと立っているねこみみ。

元々の肌が白いので、赤く染まっている頬が目立ってしまっている。。

目を閉じているせいか長いまつげも目を引く。

見た目は十代前半位に見えるが、幼さと綺麗さが絶妙に交じり合っている。


「女の子……だよな」


とりあえず、このまま掛け布団をかけると覆ってしまうので、苦しそうだ……


「ちょっとごめんな」


寝ている位置を少しずらしてあげようと、掛け布団をめくると足も折り曲げて本当に丸くなっていたが……

同時に白く綺麗なふとももが目に飛び込んできた。


「!?」


めくった布団をそのまま戻す。

(……そりゃそうだ。 猫は服を着ていなかった、そうだ、だからか)

女の子の裸(だったと思う)をはじめて目の当たりにし、ひとまわり気が動転して妙に冷静だった。

だが、このままだと……しかたない……

数回深呼吸をして、ベッドシーツに腕を這わせ見えないようにしながら、女の子だけを動かそうと試みた。

(場所的には問題ないはず……)

慎重に場所を選び、腕を入れていく。

スベスベした肌の感触で頭がクラクラしつつも、温かい肌にホッとする。

丁度身体とシーツの間に手が入った所で

(ふよん)

今までとは全く違った異次元の肌の柔らかさが手のひらに当たる。

永遠にこのままにしておきたい……という思いを振り切り、手を進め腕の上に女の子が乗っかる位置まで持って行った。

そのままそっとベッド中央まで移動させ、掛け布団を掛けても顔が出るようにする。

両方の手に残る柔らかい感触は暫く忘れられそうにない……。

大きく肩で呼吸した後、落ち着いてから清明と爽香にメールをしておいた。

もちろんこの子の事は伝えていない。



――――――――――



【娘ねこ】

部屋で食事をしながらネットで調べていると見つけた。

しかしほとんど情報的な物は無かった。

都市伝説かまぼろしか妄想か、はてまたモノノ怪か化け猫か……それくらいだった。


「どうしたものか……」


相変わらずベッドで目を覚まさない女の子を見る


「爽香に相談したほうが良いかな……」


清明なら神社の跡取りだし頼りになりそうだが(モノノ怪に詳しそうという勝手な考え)

女の子だし爽香の方が良いかもしれない。

(でも……)

何故か踏ん切りがつかずにいた。

別に人に見せたくないとか独占したいとかではなく……ただ何となく、そうして欲しくないのではと感じたからだった。

目覚めないこの子が、そんな事を訴えている気がした。

(でも、どうしたら……)

とりあえずはベッドはこの子に使ってもらうとしよう。

問題は保護してからもうすぐ丸一日経つ。

その間、食事はもちろん、水分もとっていない……熱も少し高い気がするし、あたたかくしている分心配だ。

身体を少しおこして水をと試してみたが、口が閉じられていて飲ます事も出来なかった。

が、くちびるに少し残った水をムニャムニャと口に含んでいる事に気がついた。

本能なのかどうなのかわからないが少しだけ何とかなりそうな気がしてきた……のだが。


直接くちびるに触れるのは気が引けるし、横を向いて寝ている(どうやら楽な体勢らしい)ので

ティッシュに水を含ませたり、タオルを湿らせたりとするのだが、何故が猫パンチのような手の動きで嫌がられた。

本当は起きているので無いかと思うほど拒否される。

なぜか指で直接触れると拒否されないので、心を無にしてくちびるを湿らせることにした。



――――――――――



【娘ねこ】だと思われるこの子を保護して、そして目を覚まさないまま二日が過ぎていた。

家の片付けを少しづつやりながら、様子を見るというのにも慣れてきた。

今日から新学期が始まっているのだが、この子をひとりにしておくわけにもいかず休みにすることにした。

二〜三日学校を休んでもなにか言われる事は無いだろうとは思っていたが、

二名の人物からかなりの勢いで連絡が入ったのは想定外だった。

(せめて目が覚めてくれれば……)

しかし、見れば見るほど可愛らしい……と言うか、庇護欲を揺さぶられる感じがする。

もし目が覚めて、そしたらこの子はどうするのだろう、そして俺はどうするのだろう……

…………

……


「それは目が覚めてからでいいか……」


ため息混じりにつぶやき、何気なく頭をなでる。

ここ数日何度も行ってきた何気ない行為、やさしく頭をなでる。

大切に、優しく、コワレモノを扱いうように、優しく優しくゆっくりと……


「んっ……」


微かに聞こえた。

こぼれるような微かな声。

そして……うっすらと今まで閉じていた瞼が持ち上がる。

ほんのすこしだけ。

頭をに手を置いたまま、ゆっくりと様子を見続ける。

うっすらとひらいた目がゆっくりとじていく。

(あ……)

何か言ったほうが良かったのかと思い始め……


「きょう……が?」


目を閉じたまま、俺の名前を呼ぶ。


「え……」


なんでこの子は俺の名前を知っている?

まさかの事態に覗きこむように顔を近づけた時だった。


「んっ……っ……」


握ったままの両手で顔を挟まれ


「ちゅ……ん……っ」


柔らかい感触がくちびるから脳を揺さぶる。

キス、されている。

猫のような手に顔を挟まれ……くちびるを奪われている……


「ん……んくっ……ふぅっ……」


くちびる同士がふれあうだけでなく、何かを求めるようにもぞもぞくちびる動く感触が妙にこそばゆい。

手を振り払う事もできず、かと言ってくちびるを離すこともせず、どれ位過ぎたのか……

不意に閉じていた目がパチっとひらく。

ミントグリーンの瞳が目の前に飛び込んでくる。


「にゃっ!?」


(ああ、猫っぽいっぽい反応……にゃっ、て。 あ、喋れるのね……)

目が覚めた【娘ねこ】への第一印象としてはまずまず良いと思う。



――――――――――



俺のファーストキスを奪うという衝撃の目覚めをした【娘ねこ】ちゃんは、掛け布団の下に丸く収まりベッドの上の大福のようになっている。

寝ている時は気が付かなかったが、しっぽもちゃんとあるようだ。

布団の端っこからちょろんと出ている。


「……」


「……」


聞きたいことは沢山あるが、どうしたものかと考えた末


「お、おはよう。 お腹へってな……い? それとも、何か飲む?」


非常に当たり障りの無い、内容のない言葉をかけてみた。

ピクッと布団大福は反応したが……


「……」


返事は無かった。


「何処か痛いところとか、気分が悪いとか……ない?」


「……」


反応はあるけれど返事は無い。

これはどうしたものか……本当に借りてきた猫のようだ。

折角目は覚めたが、長期戦になりそうな気配なので布団大福をポンポンと軽く叩いてからなでる。

さわってもピクッと反応するようだ。


「何か俺に出来る事や、お願いがあったら言って欲しい……な? 出来る限り……」


言葉を続けようとしたことろで、恐る恐る布団大福から顔をのぞかせてくれた。

透き通るようなミントグリーンの瞳にじっと見つめられる。

目を開けたことで完成された可愛さ……頬の赤みもだいぶ引いいている。

少し赤いが、これはなんというか、頬を赤らめているといった感じな気がする。

そのまま言葉を待つ。

恐らくこちらが話をする番では無い。


挿絵(By みてみん)


「……ここに……このおうちに、……すんでも、いいですか?」


「いいよ」


ノータイムで返答する


「いっしょに、いても……いいですか?」


「もちろん」


「……ご」


「?」


「ごしゅじんさま……って、よんでいいですか?」


「それはちょっと……」


「にゃぅ……だめぇ?」


「くっ……そう呼びたいなら、いいよ」


「ごしゅじんさま?」


「なに?」


「ご主人さま」


「ん?」


「ご主人さま!」


「なにかな」


「ご主人さまのお膝に乗ってもいいです?」


「いいよ、あっ……ちょっとまっ……」


思い出した、この【娘ねこ】は……と、思った時は遅かった。

布団から飛び出して、器用に膝の上にペタンと座り、身体をお預けてくる。

真っ白い素肌があらわになり……なんだこのやわらかくてフワフワしたいきものは……

そして、胸にうずめていた顔をフイとこちらに向け、上目遣いに見上げて


「ご主人さま? ギュッてして、なでなでしてほしいのですよ?」


みみを少し伏せて、しっぽを不安げにおよがせている。


「おはよう」


そう言いながら、軽く背中に腕を回し、フワフワした金髪の髪とみみをなでる。


「ご主人さま、大好きなのです」


ヘニャっと目を細め微笑み安心したように更に身体を預けてきた。



――――――――――



「カリン? なのです?」


「そう、娘ねこちゃんの名前はカリン、でどうかな?」


「カリン……はい、ありがとうございます、ご主人さま!」


ぴょんと飛びついてくる娘ねこ。

しっかりと受け止めて、頭を撫でると気持ちよさそうに顔をすりつけてくる。

カリンはどうしてか俺の事をご主人さまと呼ぶ。

一度名前で呼んでもらうようにしようと思ったのだが【きょうがさま】と呼ばれるのも耐えられず……

そのままご主人さまにしてしまった。

この先、外に出るようになった時に困るので、この問題は俺の気持ちの問題とする事にした。


「カリン、カリンですよ? ご主人さま。 えへへ」


目が覚めてから三日間、それはそれは色々と大変だった。

言葉も少しづつ話せるようになり、食事も普通に食べることが出来るようになったが、

なんとも服を着る(下着も)という行為がどうにもなれるのに時間がかかった。

服や下着を購入していたネット通販がこんなにもありがたいものだと思った事は無かった。

暫くは娘ねこちゃんと呼んでいたのだが、何か名前をつけたほうが良いかなと考え【カリン】にすることにした。

どうやら気に入ってくれたらしい。

猫に名前をつけると情が移るという話も聞くけれど……今更な気がするので。

そして、何度も聞いている質問をもう一度する。


「カリン? 俺の名前知っていたよな? 京雅って」


「??」


「それに、なんだ……その、キス……したことは……」


「……にゃんのことですか?」


「……」


「ご主人さま? キスは、なんですか? 教えてくれるのです?」


「あ、いや……なんでもないよ」


「ん?」


やはり同じ返事がかえってくる。

ただ、いつもは滅多に出ない【にゃ】言葉が出るところを考えると何かありそうだが……

その辺はゆっくりと様子を見ることにしよう。

それよりも早急に対応しなくてはいけない事があった。

さすがにそろそろ家に乗り込んできそうだ……いきなり来られても困るし。


「カリン?」


「ご主人さま? どうされたのです?」


「この家に人を呼んで、カリンの事を紹介したいんだけど、いいかな?」


「……ご主人さま以外のひと、なのです?」


「そう、二人ね。 二人とも大事な人なんだ」


「ご主人さまのだいじなひと、なのです?」


「うん。 でもカリンが嫌ならまだやめておくよ」


「ご主人さまはカリンのコト、だいじなのです?」


「当たり前だろ、カリンが一番大事だよ」


「……ご主人さまのだいじなひと、だいじょうぶなのですよ」


「ありがとう、カリン」


膝の上にのっているカリンの頭をなでる。


「ぁん……ご主人さま? おみみ、おみみもなでてほしいのです」

「あと、ぎゅってしてほしいのですよ……」


ゆっくり、ゆっくりと優しくカリンのお願いを聞いた後、カリンを膝にのせたままスマホを見る。

(メール多いな……)

示し合わせているかのように交互にメールが何件か来ていた。

その二人に向けてメールを打つ。


『二人に相談があるんだけど、明日の休み空いてたら家に来てくれる?』


短いメールだけどこれで……と、思っているそばから立て続けに着信がきた。

(本当にありがたいよ……)

気が付くと膝に乗っているカリンが寝てしまっていた。


すやすやとした寝顔を見ながら、どうやって紹介しようか考え始めた。




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