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2ている:【娘ねこ】のいる風景

「ご主人さま、ご主人さま、朝なのですよ?」


心地よい呼び声とあたたかくて気持ちの良い感が身体を揺さぶる。


「お寝坊なのですか? 今日はお寝坊しても良い日なのですか?」

「……ん。 今日から連休……だから、もう少し」

「そうだったのですか……。 ごめんなさいご主人さま、お着替え途中までお手伝いしてしまいました」

「ああ、ごめんな……言って無かったっけ」

「きっと、カリンが忘れていたのですよ。 では、もっとくっつきますね、ご主人さまが寒いと大変なのです」


ふよん。

やけにあたたかく、ふよふよしていて、それでいてスベスベしている感触がダイレクトに伝わってくる。

しかもさっきからやけにカリンの声が近い気がする。

ようやくはっきりしてきた意識と共に重いまぶたを持ち上げる。


「!?」


鼻と鼻がふれあう位の距離でカリンが少し頬を染めながらじっとこちらを見ていた。

そしてこちらが目を開けたのもお構いなしに、唇に柔らかくあたたかい感触が襲ってくる。


挿絵(By みてみん)


「……んっ。 んんっ……ご主人、さま? ん…おはようございます」


触れた唇を離すことなく、話を続ける。

唇がうごく度にこそばゆく柔らかい感触が何度も襲ってくる。

驚いて離れようとするが、首に腕を回されて離れられない事に気づく。


「カリ……ン?」

「んん……にゃん……ご主人さま……ちゅ……ん。 くすぐったい……んんっ、のです」


触れ合った場所が離れる事無く、必然的にキスをしながらなのでお互いの唇が同じ様な動きをする。


「あ、あのな……一旦離れ……」

「ギュッてして……ちゅ……ん……欲しいのですよ?」

「――」

「ご主人さまぁ……?」


このままだと色々な事に溺れそうな気がするので、ゴソゴソと布団の中で腕を動かし、カリンの背中に腕を回して抱きしめる。

ふよふよしたスベスベした肌の感触が心地よい。

(肌の感触?)


「にゃぁん♪ ご主人さま、うれしいのです。 カリンも、ギュ〜ってするのです」


ゾクリと体中に震えがくる。

素肌に感じるあたたかさと柔らかさ、あろうことか俺の足の間にもするりと滑り込んでくる。

はじけ飛んでいきそうな精神を何とか保ちつつ……


「カリン? 何してる……んだ?」

「? 何がですか、ご主人さま? お着替えのお手伝いを途中までしてしまったので、ご主人さまが寒く無いようにあたためているのですよ?

「だからって……なぜ、カリン、その、裸なの?」

「おはようございます、ご主人さま。 起きられたのでしたら朝食の用意をしますね?」

「そうじゃなくて……なにか、した?」

「にゃ? お着替えのお手伝いなのですよ」

「ご主人さま、大好きなのです」


ニコッと微笑みながら、猫のような素早さでもう一度キスをして、ふわっと布団から飛び出す。


「カリンはそんなはしたない娘ねこではないのですよ? 裸ではないのです」


確かに裸では無く……下着姿、と言うかパンツしか履いていない。

後ろ手を組んでモジモジしている姿は可愛いのだが、説得力は全く無い。


「ご主人さまがお着替えしている間に、朝食のご用意をするのですよ」


フリフリとしっぽを嬉しそうに振りながら、トテトテと部屋を出ようとするカリン。


「カリン! ちゃんと服を着なさい、服を」


こちらを振り返って、ニコッと頷きながら部屋を出て行った。

休日なので、パジャマのままで……と思ったのだが、自分の姿を確認してギョッとする。

パンツ以外全て剥がされていた。

つい先日までボタンに苦戦していたのを思うと驚くべき進歩だが、気づかれずにここまでするとは……末恐ろしい。

起きない俺も問題だが、寝間着のスタイルを見直す必要もあるかもしれない。



---------------



「あ……にゃ、ん……。 ご主人さまぁ……ご主人さまぁ……あんっ」


ソファの上で身をよじりながら甘い声を漏らす。


「ふぁぁ、そんな奥までぇ……。 乱暴にしちゃ、や、なのです……よ。 にゃぁぁん……」


目を細め、瞳に涙をためて、顔を赤くしながら……とじる事すら出来ない半開きの口からは変わらず甘い声が漏れる。


「やぁん、だめぇ……ご主人さまぁ……クリクリしちゃ……やぁ……」

「……じゃあ止めるか?」


専用のコットンでみみそうじをする手を一旦とめる。


「ご主人さまぁ……イジワルなのですよ……止めちゃ、や、なのですよ」

「もう少しその声を抑える我慢はできないのかい、カリン」

「気持よくて我慢できないのです……でも、ご主人さまがそう言うなら少し我慢するのですよ?」

「嫌いじゃ無いけれど、色々ヤバイ……いろいろ」

「続き、続きをしてほしいのですよ、ご主人さま」


新しいコットンを取り出してもう一度みみ掃除を始める。


「んっ……んんっ! ん、んんぁ……。 くふぅ……ん、んっ……」


顔をさっきよりも赤くしながら、目をギュッとつぶって涙を流し声が出るのを耐えるカリン。


「……ごめんなカリン。 我慢しなくていいよ……」

「んはぁ、にゃ? はぁ……っ、はぁ……そ、うなのですか?


余計に扇情的になってしまった。


「あんっ、ご主人さまぁ……気持ち良いのですにゃん♪」


俺の膝の上で顔を赤くして、桃色吐息をはきながら身体をくねらせるカリン。

普段は控えめで素直な娘ねこをここまでにしてしまった事を反省した。



---------------



始まりは朝食後、録画してあったドラマを見ようとソファに座り直したところで、片付けの終わったカリンがいそいそと隣に来た事が始まりだった。


「ご主人さまはこのテレビ好きなのですね。 カリンには難しくてよくわからないのですよ」


ドラマは、変人と呼ばれる大学准教授が刑事に依頼され事件というか、事件にまつわる謎を解き明かしているミステリだ。


「どうぞ?」


ドラマが始まると隣に座っていたカリンがポンポンと自分の膝をたたく。

ワンピースの裾から伸びる見ただけでもスベスベプニプニしている魅惑のふとももをだ。

そしてじっとそのままこちらを見ている。


「ご主人さま? はやくはやく、ど〜ぞ?」

「どうぞと言われても……」

「……。 (にこっ)ご主人さま……ここなのですっ!」

「!?」


不意にぐいっと頭を抱え込まれ、強引に膝枕にもっていかれる。


「ふんふふ〜ん♪ ご主人さま? カリンのひざまくら、気持ち良いですか? 気持ち良いですか?」

「……はい」

「ありがとうございます♪」


とてもご機嫌そうににこやかにしている。

しかし、おかしい。 様子がおかしい。


「あのですね、ご主人さま?」

「……はい」

「お耳のそうじをしてもよろしいですか? 最近していないのですよ?」

「え? あ、ありがとう。 でも今はドラマ見てるから」

「動かないでくださいなのですよ? 準備は出来ているのですよ」

「いや、だから、ドラ……ひょ」

「動いてはダメなのです。 えへへ……ご主人さまのおみみ〜♪ あ、痛くないですか?」

「カリン……あの」

「ふふふ〜ん、にゃふ〜ん♪ がそごそがそごそ〜♪ きれいにするのですよ〜」

「ドラマ……」


ご機嫌に耳そうじをしてくれるのは嬉しいし気持ち良いのだけれど、テレビの音が全く聞こえない。

そして、こちらの言うことを全く聞いてくれない。


「カリン……? 怒ってる?」

「……にゃにがですか? 一度ふ〜ふ〜しますね♪ ふ〜〜〜」

「!?(ぶるぶる)」

「ご主人さま? 反対側なのですよ? クルッとまわって、カリンのおなかの方に向いて下さいなのです」

「テ……テレビが見えなくなるのですが……」

「それでは、ここで止めるとよいのですよ」


ソファーに座った時には確かにテーブルの上にあったリモコンをいつの間にかカリンが持っていた。

そして、テレビごとオフにする。


「おなかの方に向いて下さいですよ、ご主人さま?」

「……はい」


言われたとおりに体ごと反転させる。

反転するときに寄りすぎてしまったらしく、ふにゅんと脚の付け根あたりに顔をくっつけてしまった。


「ふぁっ……。 くしゅぐったいのです……」


ササッと少し後ろにずれる。

……それにして……もどこをさわっても、なんというか……

テレビの音もなくなったせいか、妙に頭をのせている太ももにの感触も気になってしまう。


「では、こちらもおそうじするのですよ? 最近していないですから、しっかりやらないとですよ」

「……」

「ご主人さま〜? 気持ち良いですか? カリンのお耳そうじ気持ち良いですか?」

「あ、うん……」

「ご主人さまぁ? こうやってご主人さまとゆっくり過ごすのは久しぶりなきがするのです」

「……」

「学校の他にも、遅くまでお出かけしていたり、お休みの時もお出かけになられたり……お疲れ気味なのです」


何となくカリンの言いたい事がわかってきた。


「帰ってこられても、すぐにおやすみになられたり……」


既に耳そうじの手は止まっている。


「心配なのです……よ」


本当に俺の事を思ってくれているというのは分かっている。

が、もうひとつ……


「……ご主人……さま?」


朝からの行動の原因。

このいじらしくも、主張する娘ねこの行動。


「カリン、ありがとう。 今度は俺がカリンのみみを綺麗にさせてくれないかな? その前に……」


身体を起こして、カリンの方に向き直り


「おいで、カリン。 ごめんな、寂しい思いさせて。 ギュッてして、たくさん……なでさせてくれない、かな?」

「……ふにゃ……ぁ」

「……」

「ご主人さま……? カリンのコト……だいじ、ですか」

「当たり前だろ? だいじ、で、だいすき、だよ。 おいで?」

「ごしゅじんさまぁ〜! 寂しかったのですよ、カリンは、寂しかったのですよ? でもご主人さまに心配をかけさせてはいけないのです。

 でも、ギュッてしてほしかったのです、なでなでしてほしかったのです、でも、ご主人さまお疲れなのです。

 ごめんなさい……ご主人さま……ワガママでごめんなさいなのです……ご主人さま……だいすきです……」

「寂しい思いさせてたね」


膝の上で丸くなりながらグイグイと擦り寄ってくる身体をしっかりと抱きしめ、ふわふわした髪の毛を何度も何度も優しく、しっかりとなでる。


「にゃぁん……ご主人さまぁ……」


安心しきったような表情で体重をあずけてくれる姿を見ていると、何というか……凄く嬉しい気持ちになる。


「ほら、カリン? みみを綺麗にするぞ。 俺のひざまくらで申し訳ないけど」

「…………」


何故か膝に乗ったまま動かない。

みみがピクピクと反応しているので、喜んではいるようだけど……


「みみを綺麗にしたら、買い物でも行こうか? それとも散歩でもするか?」


みみに続いて、しっぽも反応し始めた。


「まぁ、なんでいいか。 今日はカリンとずっと一緒にいるから、時間はっ!?」


言い終わらない間に、クルッと身を翻し、膝の上にちょこんと頭をのせる。


「ご主人さま? たくさんたくさんかまってほしいのですよ? いっぱいいっぱいなでなでしてほしいのですよ?

 おみみ、優しく……綺麗にしてほしいのです……よ?」

「了解」

「ご主人さま?」

「ん? どうした?」

「だいすきなのです♪」


ひざまくらから見上げながら極上の微笑みをする娘ねこ。

この風景をみるのは凄く久しぶりな気がする。

そして、この大切な風景を守りたいと思う。


「ほら、カリン、はじめるぞ?」

「ご主人さまぁ? やさしく、やさしくなのですよ♪」


膝の上で気持ちよさそうにする『娘ねこ』が目の前に現れたのは……


「ご主人さま? あとあと……お出掛けも、忘れちゃ、や、なのですよ?」


こちらの様子を伺いながら、それでいて断れない要求を押し付けてくる。

……違うね、この可愛いお願いを断れるわけがない。


「わかってるよ。 みみ掃除をさっさと済ませて用意するか?」


「ダメなのですよ。 おみみ、沢山かわいがってほしいのですよ」


顔の前で小さな手を合わせ、おねだりするようにチラリとこちらを覗き見る。


「わかってるよ、カリン」


頭をなでる。


「にゃぁん、ご主人さま、大好きなのです」


膝の上で嬉しそうに目を細める『娘ねこ』が目の前に現れたのは……

まだ少し雪が残っていて……


ひとりになる、という事に慣れる為には時間が足りなかった。


そんな夜。


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