フリガ
「オカダ査察官、総督府に来るがよい。そなたの勇気と冷静な判断力、そして見事な戦いぶりは、しかとこの目で見させてもらったよ!」
デュアン総督は白いコルベットの左ドアを開けると、キーを捻ってV8エンジンを目覚めさせた。なんと自らハンドルを握って運転するつもりだ。
「何人戦死するかと思っていたが……ゼロか! ははは、手加減したのか。ずいぶんと、なめられたものだな!」
オートマのセレクターをローに入れると盛大な白煙を上げてタイヤを鳴かせる。そのまま爆音を響かせながら親衛隊の車を引き連れ、我々の前から姿を消したのだ。
B級奴隷の戦闘員も、それを合図にどんどん撤退していく。あれほどいた男達が皆、潮が引いてゆくように目の前から消え去った。
ゴールドマン教授もミューラー市長に連れられて、我々の前から立ち去ろうとする。何だか言葉に言い表せないような、切ない想いで一杯になった。
!! はっとする。
去り際に教授が一瞥して、メダルのような物を僕に投げてよこしたのだ。バンドは付いてなかったが、Ωのマークが入った古い機械式の腕時計だった。
手巻きのクロノグラフは30年間もオーバーホールをしなかったので、時を刻むのを止めている。だが紛れもなく宇宙飛行士が命の次に大切にする時計に違いなかった。ケースの裏にはアストロノーツ・ゴールドマンのサイン。
「教授! やはり、あなたは……」
僕は二人の姿が見えなくなるまで、いつまでも見送った。仲間を見回して微笑んだ。そして心に確信する。彼の目は決して死んではおらず、瞳の奥には燃えるような意思を秘めていた事を。




