エウリュディケ
ゴールドマン教授……前回、ケプラー22bに派遣された植民惑星査察団のブレーン的存在。
バイオニクス専攻だったと聞いたような……。
もう30年以上前の出来事になるのか。僕はまだ生まれてさえいなかった。思えば電子書籍で読んだ彼ら初代査察団10名の勇気に心打たれて宇宙飛行士、さらには植民惑星査察官までも志したのだ。
伝説の人物が目の前にいる。
感動でしばらく言葉が出てこなかった。
「……私は、後任の太陽系外植民惑星一等査察官のオカダ・アツシと申します。ゴールドマン教授、貴方の事はよく存じ上げております。僕の憧れのヒーローの一人なんです」
「…………」
「地球に戻れない事が分かっていながら、600光年先にある未知の惑星に飛び込んでいく……いや、パイオニアである第一次ケプラー22b開拓移民団の方が勇者だったかもしれませんが、それでも……」
「…………」
「今までどんな苦労を経験されたのでしょう。言葉に言い尽くせませんか? 他の査察官の方は……」
「…………」
ゴールドマン教授は僕の話をちゃんと聞いてくれているようだが、全く反応がない。目をつぶって、腕組みして、時々思い出したように鼻をすする。
「はじめまして、私はサポート担当のアニマロイドです。通称スケさん、こちらはカクさんです」
シュレムは昔、入院した事もある教授を知っていた。男奴隷に対しては挨拶もそこそこ。
教授は少し目を開けた。そして両腕に力を込めて、何か言う素振りを見せたのだが……代わりにまるでドブのような匂いがする気体を尻から大気中に放出したのだ。
「……臭っ! ヴォエ! 目にしみる……こりゃたまらん」
カクさんが一番の被害を被ったのかな? 屁のせいで毛皮が心なしか黄ばんだ……気がする。
ちょうど風下にいた僕は、教授からのありがたいプレゼントを全身に浴びてしまったのだ。




