アリアドネ
次の瞬間、スケさんとカクさんが操縦する高機動車が、音もなくB級奴隷の輪に突っ込んできた。モーター駆動なので、ステルスモードにすると驚くほど静かに行動できるのだ。
急ブレーキでタイヤが鳴いて、アスファルトに黒い筋を4本つける。周囲を固める看護師さん達は、初めて見るタイプのゴツい車に驚きを隠せないようだ。
僕は、呆気にとられているシュレムに手を振ると、猛ダッシュしてタイヤとボンネットを足がかりに車の背に飛び乗った。
「さらばだ、美しい看護師さん達!」
景気付けにボロ着を脱いで宙に放ち、上半身裸になった。宇宙船内のジムで鍛えて研ぎ澄ませた肉体を披露。何だか妙にテンションが上がってきたぞ……屁を一発かますとズボンの尻が破れる程にな!
「もう手っ取り早く行こう! この星で一番偉い人と会わせろ! 俺は地球からはるばるやって来た植民惑星査察官だ~!」
武装看護師の皆さんが僕を見て目を丸くしているのが、はっきりと見渡せる。
「オカダ査察官の言う通り! 我々は開拓移民の現状を調査する目的で、この地に降り立った30年ぶりの使者である! 行く手を阻む者には国連宇宙局一等査察官の名において、容赦なく制裁が下されるだろう!」
カクさんが車の屋根から高らかに人語で宣言すると、さすがのアマゾネス達も尻込みした。唯一人を除いて。
「何を偉そうに、男の分際で!」
シュレムは両脚を広げて唇を噛み締めると、華奢な体に不釣り合いともいえるM4カービンのコッキングレバーを引いた。そしてセーフティを外すと、ためらいもなく車のエンジンを狙って連射してきたのだ。
破片を撒き散らし、高機動車のボンネットが蜂の巣となった。だが瞬時に流体装甲が穴を塞ぎ、ダメージを無かった事にしている。
「おいおい、殺す気か~! 危ねえだろうが!」
威嚇射撃とはいえ、実弾が自分に向かって飛んでくる恐怖は、筆舌に尽くし難い。カクさんなんか、尻尾を巻いてすぐ車内に避難したぐらいだ。彼女から撃たれるのは、これで二度目だな。もはやキツイお仕置きを実施せねばなるまいて!




