ポモナ
第三章 最強スキル発動
病院の階下は当然ながら窓一つ見当たらない。もしあったとしてもガラス一面にびっしりと張り付いたトビエビの大群を目の当たりにするか、いつ終わるやもしれぬ雲や霧のようなトビエビの大編隊飛行を暗い空の下、数日眺めることになるのだろう。
外部で一体何が起こっているのか全く把握できない。ここは、しんと静まりかえっている。病院の地下には、まるで似つかわしくない監獄のようなスペースが存在しているのだ。それでも、あのトビエビ地獄の中に放り込まれるより、よっぽど恵まれているとは思うが。
廊下の照明も必要最小限で、不気味に薄暗く感じた。薬剤部と院内物流管理システムの他は、ほとんど鉄格子付きの収容スペースで占められていると言っていい。地下二階なのかな?
僕は最初、独房で様子見されていたが、監視所からの操作で仕切り壁がせり上がり、雑居房の連中と御挨拶する事に相成った。
「ん……何だ?」
壁を背もたれにしていた僕は、思わず声を上げる。ここにぶち込まれている人間は一体どんな奴らだ。孤独の寂しさから解放されるのはいいが、さすがに不安にかられて身構える。
「あらぁ? 酷いお顔……!」
「誰に殴られたの~? 男前が台無しよ」
素っ頓狂な声が地下に響いた。物腰の柔らかなお姉さん達が、わらわらと集まってきた。収容スペースは意外と明るく豪華な作りで、長期間人々が快適に暮らせるように広々と設計されている。
「ヒロミ~! 救急箱を持ってきて~」
ポニーテールの綺麗な女性は、初対面の僕にも優しく接してくれた。看護師なんかより、よっぽど。ピンクのチュニックにハーフパンツ、ゆるゆるのハイソックスのズレを直しながら満面の笑みを投げかけてくれたのだ。
「応急処置しかしてないわね、傷が残らなければいいんだけど」
瞼の出血部をピンセットにつまんだ消毒綿で丁寧に拭いてくれた。
「いてて! 本当にありがとう。感謝するよ」
「どういたしまして。新入りさん」
冷静になって見まわしたが、雑居房にも男の姿はなかった。僕が珍しいのか、数十人の女の子から質問攻めに遭った。どう説明したらいいものか……。
元気な茶髪ロングヘアーの女の子が横からしゃしゃり出てきた。皆同じような服を着ている。
「私は、ヒロミ。あなたを手当てした子は、マコトっていうのよ」
「ちょっと、せっかく自己紹介するつもりだったのに~! ひどいわ! 引っ込んでてよ~」
マコトは皆と楽しそうに笑って、はしゃいだ。 檻の中なのに元気だなぁ。そういえば、僕は男なのに何で女性と一緒くたにされてんだ?
「ねえ、ねえ、それで……あなたの名前は?」
ヒロミは髪の先っぽをくるくると指先でおもちゃにしながら、恥ずかしそうに訊いてきた。
「俺は……俺の名前はオカダ・アツシっていうんだが、うーん、参ったな」
「アツシー!?」
一同の声がテノールとバスの混成合唱となったのだ。




