ルドヴィカ
「シュレム、マリオットちゃん、それにブリュッケちゃん、待たせたな」
僕はゆっくり三人の方向へ移動して行った。周りの婦警達は固唾を飲んで見守っている。野次馬連中も、しんと水を打ったように静まり返っていた。
前触れもなく捕らわれの身となった彼女らは、衆人環視の中で緊張して気まずそうにしていた。無言で彼女らに向き合う。恥ずかしがっているように見えるシュレムと目が合った。
「オカダ君……」
先に言葉を発したのはシュレムの方だった。
「心配するな、助けに来たぜ」
それから僕は天井桟敷のデュアン総督に向き直って、おもむろに語り始める。
「インディペンデンス号の秘密の開示か……いいだろう。実は遠隔操作用のナノテク・コンタクトレンズは使い捨てタイプなのさ。予備はいくらでも用意してある。ここに来る前に身体検査で没収されたけど、口の中に隠していた2枚をすでに装用済みだ」
「何だと……」
デュアン総督は側近の制止も聞かず、壇上の席から立ち上がった。
「おっと狙撃するのは、ちょっと待ってくれ。遠隔操作は特別な訓練とコードを授けられたコンタクト・ドライバーのみ可能。つまりインディペンデンス号をどうこうできるのは俺だけなんだぜ」
隣のシュレムが小声で訊いてきた。
「スケさんと、カクさんはできないの?」
「君は黙ってなさい」
口封じのために思わずキスをした……デュアン総督の御前だというのに。ドサクサとはいえ、テンションが上がり過ぎていたのかもしれない。当然シュレムからは左頬にビンタを食らった。酷い! 鼻血が出るほど叩かなくてもいいじゃない!
周りの人々は一瞬何が起こったのか把握できず唖然とした。雪山の夜を思わせる静寂が辺りを支配する。
「デュアン総督! とにかくインディペンデンス号と彼女らは絶対に渡せない。俺が守ってみせる」
怒濤の歓声が上がり総督府は騒然となった。デュアン総督はわなわなと怒りに震え、ヒステリックな怒号を上げた。
「公衆の面前で奴隷が女に手をかけるとは……万死に値する重罪だ!」
「あんたでもジェラシーを感じる事があるのかい?!」
「くそ、すぐに奴を始末しろ! 発砲を許可するぞ」
デュアン総督は怒り心頭で、非情な命令を下した。一番近くにいた警官隊が一斉に銃を構える。




