アリス
甲殻類の殻をラミネート加工して仕上げたキチン質の盾を並べ、足軽は外野から押し寄せるB級奴隷に対してバリケードを形成した。それでも無理矢理総督府に侵入しようとする輩には警棒で殴りかかっているが、どうも本気で叩いておらず手加減しているようにも見受けられる。同じ身分の男という仲間意識からなのか。
デュアン総督は頭上に存在する宇宙船を気味悪く感じているようだ。当然、準天頂軌道上をそんな物が飛行していると枕を高くして眠れない。
「インディペンデンス号とやらを完全に無力化する事。それが彼女達の解放への絶対条件と思え」
「インディペンデンス号か……そういえば衛星軌道上での衝突を避けるために、近寄ってきた未確認飛行物体を実力行使で排除したが」
デュアン総督は思い当たるフシがあったのか、ばつが悪そうに押し黙った。
「話をはぐらかすのはやめろ……オカダ元査察官、返事はどうした」
「実はもう母船との通信手段がない、と言ったら信じてもらえるかな」
「何だと?」
「ナノテク・コンタクトを処分する命令を出したのは総督でしょう。もう、動かすこともできなくなったじゃないですか」
「ぬかせ! 他の方法があるはずだ。どこからかコマンドできるのだろう」
「それは、どうかな……」
僕は天空を仰ぎ、見えるはずのない母船の艦影を追った。
「逃げやしないから先に彼女らと会わせてくれ」
するとアディーとチトマスが揃って警官隊の中から現れた。そばに来て、総督に確認を貰うとエスコートしてくれた。
「ありがとう、お二人さん。とても親切で勇気ある警察官がいたものだな」
アディーとチトマスはニッコリして持ち場へと戻って行く。




