フォカエア
市役所を出た僕は、思わずため息を漏らした。どこからか遠巻きに監視でもされてはいないのか。
今着ているのは国際連合宇宙局のワッペン付きの白いツナギ服だが、この星の人々には異様に映るのかな? ギター・ライフルも威圧感を与えるので今度は置いて行こう。
カクさんは僕を元気付けようと、ひと際大きな建物を示した。
「今度は、あの白い病院に行ってみようぜ。12階建てで屋上にヘリポートもあるみたいだ」
スケさんもすぐ補足してくれた。
「データではオーミモリヤマ市随一の総合病院ということですが」
しばらくの間、低速で車を走らせて左折。広い敷地内に入場すると、大理石でできたオーミモリヤマ市民病院の文字が鈍く光っていた。すぐにガラス張りの大きなエントランスを発見する。
一瞬だが玄関ロビー付近に小さな人影が見えた。
「おお! ついに第一村人発見!」
言うが早いか、スケさんとカクさんは車から飛び降りると、人影に向かって元気に駆けて行った。
「ひ、ひゃあっ!」
遠くから悲鳴が上がったが無理もない。いきなり見たこともない動物……オオカミとジャガーが近付いて来たのだから。
「こんにちは! はじめまして。言葉は通じるかな? 我々は、はるか彼方の母なる星、地球からはるばるやって来た査察団の一員だ……どうか怯えないでほしい」
カクさんが日本語でしゃべり、ほぼ同時にスケさんが英語で通訳した。
……人影の正体は異星人、いや植民惑星ケプラー22bにおいて最初に出会った記念すべき人間は、色白で可愛らしい女の子だったのだ。
「い、犬と猫? どこから来たの?」
二頭はショックで全身の毛が抜け落ちそうになったが、何とか気を取り直した。
「流暢な日本語ね、前もって知ってはいたけど、公用語としては珍しいケースだわ」
「ええやんか。コミュニケーションは普通にいけそうやで」
カクさん、関西弁になってる……。
僕が二頭の後から追いかけて観察すると、姫カットの長い黒髪が印象的なローティーンくらいの女の子。折り目正しいブレザーとスカートの学生服を着用しており、黒ソックスと胸元の赤いリボンがアクセントになっている。愛らしく、つぶらな茶色い瞳には、明らかに恐怖心が見て取れるのだった。




