アンナ
「おーい、彼女~! いる~?」
一瞬ドキッとしたが、半日の仕事を終えたアディーのようだ。寮の外から二階の部屋に向かって声を掛けてきた。窓が開いて電気が付いているのを目ざとく確認したのだろう。
「あら、オカダさん?! うそ!」
ベランダから僕が、ひょっこり顔を出すと、私服姿の彼女は目を丸くして口を手で覆った。前からずっと感じていた事を繰り返すが、アディーは本当に僕の元彼女に仕草までそっくりだ。いつも気になって仕方がない。
アディーがオートロックのエントランスを通過し、寮の階段を上がってきたので、ドアの鍵を開けた。
「どうしてここに? 発信機によると、別の場所で下水道工事しているはずですけど……」
「発信機の仕掛けなど、とっくに解析済みだ。おそらく今は、協力者である身代わりの男が行動しているはず。地球人……いや、ゴールドマン教授の得意分野を侮ってもらっちゃあ困る」
「そうなんですか……元気そうで何よりです」
アディーのプライベートの服装は、意外と派手……胸元を開けたシックな黒基調のドレス風なので驚いた。普段、地味な制服の日々からくる反動なのか。
「ホントに久しぶりだな……警察署の地下留置所以来かな? たまに駅前で見かけていたけどね。でも俺と一緒にいる所を見られたら、立場的にヤバいな」
「確かに。砂漠での一件からオカダさんに会う事も禁止されているし、影の協力者ではないかと嫌疑にかけられています」
アディーはクッションの上で正座していたが、黒パンストの足を崩した。早くも痺れてきたのか。
「俺と関わったばかりに……悪い事をしたな」
「いいえ、地球人の方と知り合えて光栄に思っていますよ。マリオットちゃんもそうでしょう? ねぇ」
「うん、オカダ君の事は好きだよ。我が家の専属奴隷になってよ」
そう言いながら台所から皿に取り分けたクッキーを持ってきた。




