オッパヴィア
「あなた、失礼ね! 私のファッションセンスにけちを付ける気?」
チトマスは、ぐっと両手で僕の腕を引き寄せて、二の腕を浴衣の胸に押しつけた。デカいが張りのある感触が心地いい。鼻の下が伸びる伸びる。
「そんな気はないわ……誰なのあなた?! 女一人で男達とやけに盛り上がっているじゃない」
今度はシュレムが不機嫌に。チトマスに抱きつかれ、どぎまぎしている僕を睨みつけてきた。まんざらでもない様子にシュレムはだんだんと口がへの字になってくる。やばい、やばすぎる、この状況は。目に見えない火花が彼女らの間でスパークしているような錯覚を起こしたのだった。
「やれやれ、若いって事はいいもんだな……」
ついに見かねたゴールドマン教授が割って入ったのだ。興奮ぎみに白衣の胸の前で腕組みをしているシュレムに向かって、子供をあやすように近寄った。
「おお、数少ない男の味方、看護師のシュレム君だね。最近奴隷制度に異を唱え、デュアン総督にマークされているというのは本当かね?」
「ええ、私だけじゃなくアディーもね。奴隷階級の人間と必要以上に慣れ親しんでいるという理由で白い目で見られているわ。女社会は怖い……アディーなんか公僕なのに男に優しくしているから、このままでは出世できないとまで言われているらしいよ」
「うむむ、婦警のアディーまでもが……」
「いやいや、のんきに世間話している場合じゃなかった! いいこと、今からここに警官隊が押し寄せて、一斉捜査が始まるって事を急いで伝えに来たの」
「何だと! チトマスよ、聞いているか?」
「いえ、まだ私の端末には届いておりませんが」
二人は焦って警察用スマート端末をバッグのポケットから引っ張り出している。
僕はシュレムとの久々の再会の方が嬉しくて冷静さを失うこともなかった。




