マティルド
「君がこの惑星に降り立った瞬間、状況が変わったのだよ……な、チトマス君」
「やっぱり私、自分が女であることを捨てきれなかったの。警察署内でオカダさん、あなたの噂を聞いた瞬間、胸がときめいたわ。なぜだか分らなかったけど、最近気付いたの。何かが変わる、私自身の中でも、マクロな視点ではケプラー22bの社会でも。かねてから地球の男とタッグを組みたかった私は、リーダーシップをあなたから伝授されたいと切に願うようになった訳です」
「そんな、いくらなんでも俺を買いかぶり過ぎだ……」
「オカダ君、学生時代の化学実験を覚えているかね。二酸化マンガンに過酸化水素水を注ぐと酸素が大量に発生する。二酸化マンガンが触媒になって酸素の発生を促進させたのだ。しかも触媒自体は一切変化せずに……。
私は君にケプラー22b革命を実現する触媒になって欲しいと考えている。今の女尊男卑社会はフェミニストの立場においても、全く歪みを含んだ社会だ。一見うまくやっているように見えるが、このままでは支配体制維持のストレスで必ず将来先細りとなる。人類の種としての発展に未来がないのは明白だ。私のような合衆国出身の者にとって自由平等社会の実現は悲願なのだが、いかんせんチャンスを狙っている内に年を取りすぎた。
オカダ君、君は革命派のリーダーとして最もふさわしい。是非ケプラー22b開拓移民……いや、この私を含む惑星全ての人類のために立ち上がってくれないか」
自分にそんな資格と覚悟があるというのだろうか。ただの一太陽系外植民惑星査察官でしかないというのに。
ゴールドマン教授が指にはさむ手製の巻き煙草。その灰がテーブル上に落ちそうになる。紫煙が誰に邪魔されるでもなく沈黙を満たす天井に吸い込まれてゆく。
「あんた達、何やってんのよ!」
男達の聖域である温泉のエントランスに響き渡る女の声がした。とたんに緊張が電撃のようにB級奴隷の間に走り抜け、隠し武器を取り出したり、裸でトイレに隠れる輩が出てくる始末だ。




