バルバラ
ゴールドマン教授は無言のまま跪き、腫れあがった僕の顔を見据えた。
「教授、会社に行って、あなたの助手のランドルトに会いましたよ」
「…………」
あい変わらず、黙ったまま何も答えてくれない。何か考えがあっての行動なのだろうか。表情を一切変えず、痛む顔に両手を伸ばしてきた。そして僕の両眼からコンタクト・ドライブシステムの中核的な要であるナノテク・コンタクトレンズを二枚ともサッと外した。
「痛たた……汚い手で俺の目に触るな!」
ついつい教授の手荒い行動に怒ってしまった。すると特別席からデュアン総督が、床にうつ伏せのままの僕に近寄ってきた。金髪をなびかせながら、満足そうな面持ちで薄笑いを浮かべているのが少しムカツク。
「正直、お前がコンタクトレンズを通して飛行機や宇宙船を操作していた事には、全く気が付かなかったよ。ゴールドマン教授……奴隷長のお手柄だな」
「デュアン総督、コンタクトがないと、その美しい御み足がよく見えませんが……」
僕は床下から見えてしまう総督のスカートの中身をつぶさに観賞した。
「新しい下着に換えてきて正解だったようだな……だが、おまえの減らず口もここまでだ!」
僕はまるで屠殺されるような勢いで衛兵やスタッフの女どもから殴られ、蹴られまくり、ボロボロで会場から担ぎ出されたのだ。
いつも眼鏡がお似合いのオーミモリヤマ市長、ミューラーとも偶然に目が合った。無論、彼女の立場からも僕の処遇に口出しできないのは言うまでもない。……ひでえな! 助ける素振りだけでも見せてくれればいいのに。そうすれば僕の心中での美人好感度ランキングが2ステップほどアップしたはずだ……。
本物の美女になり損ねたミューラー市長は、申し訳なさそうに眼鏡を外して僕の背中を見送ったのだ。




