エウドラ
広くて落ち着いた雰囲気のある、ガラス張りの部屋に案内された。病室のようでいて、はたまた精密機器を扱うクリーンルームのような部屋だ。ホコリ一つ落ちている事が許されない、無味無臭を思わせる白い空間……。
目を擦りながらよく見ると、中央にポツンと置かれたメカニカルな椅子に誰かが横を向いて座っている。人形のように美しい女の子であった。マリオットちゃんやブリュッケちゃんより若干年上といった印象だ。
隣にはロング丈の白衣を着たランドルト姉が、机のモニターに向かって入力作業を行っている。部屋には古臭いキーボード入力による乾いたタイピングの音だけが響いていた。
僕が呼吸を整えて近寄っていくと、女の子は椅子ごと僕の方へ振り向いたのだ。カクさんと一緒に息を呑む。ドキドキして言葉がうまく出てこない。なおも近付くと、女の子の顔がはっきりと分かった。ボブカットの艶髪が神秘的なまでに黒光りする超絶美少女だったのだ。
……何だろう、マネキンのように完璧なる造形なのだが、ホクロもぽつぽつ見られるような生々しさもある。完全バランスの中にある画竜点睛したくなるようなアンバランスさ……完全なる不完全。とにかく不自然なくらい美形の少女が、妙に古いデザインのセーラー服を着て座っていたのだ。
時間の経過が忘却されたかのように沈黙が破られず、いつまでもシンと静まり返った空気。
「ふふっ……オカダ君、私よ。もう忘れちゃったの?」
「いや、分かるよ、分かりますとも。スケさんなんだろ」
「正解。人工的偽身体を手に入れて、私……人間になっちゃった。魔法にかかったみたい!」
シュレム・マリオット姉妹とブリュッケちゃんが満面の笑みで僕に告げた。
「どう? 本当にビックリしたでしょう?!」
「ああ! こりゃマジでたまげたな! 100歳のアニマル女子高生か」
人間としては新人、でも中身はベテラン。女子なのかババァなのか、カテゴリー分類不能のロリ熟女、しかも元ジャガーという謎の人工生命体? が誕生したのである。
スケさんは、すっくと椅子から立ち上がったのだが、足元が震えてまっすぐに立てないようだ。すぐに肘かけに両手を乗せた。それにしてもマンガのようなツギハギのある白い半袖セーラー服と短い紺のスカートは一体何なんだ? それにルーズソックス? これらが違和感を強める原因の一つと思われるのだが。




