オエノーネ
僕はうまく赤信号を回避するように運転しながらランドルト弟に言った。
「お前、運がいいな。俺達が発見しなかったら今でも地下室だぜ」
「違えねェ……今でもゾッとするぜ」
カクさんは助手席で舌を出したまま補足した。
「いいや、本当に運が良かったら、そもそも捕まって閉じ込められていないよ」
ランドルト弟は僕と同じ白ツナギ服を着た後、訊いてきた。
「あの、オカダ査察官、他の人達は?」
「シュレムとマリオットとブリュッケちゃんは、オーミ姉妹社……君の姉の職場に一緒にいるよ」
「あー、……あの~」
「アディー巡査ならオーミハチマン警察署からまだ戻ってきていないはず。後で会えると思うぜ」
「そうですか!」
バックミラーにニンマリしたランドルト弟の間抜け面が写った。同じミラーで尾行してくる車が存在していないかどうか確認する。結構な数の大小の車が走っており、今までで一番交通量の多いコロニー都市だ。そのまま慎重に裏道を選択してオーミ姉妹社まで戻ってきた。
会社の守衛婆さんに頼んで門を開けてもらい、再びカクさんらと共に倉庫に偽装した研究所に入る。
「あっ! カクさん! 急にいなくなるなんて、どういう事? 全くもう……あまり心配させないでよ」
控えの部屋に入るなり、白衣のシュレムのカミナリが哀れなアニマロイドの頭上に落とされた。
「今度いなくなったら首輪をつけちゃうからね!」
シュレムはカクさんの姿に安心したのか、辛辣な言葉を連続で浴びせ続けた。
「へん、つけられるもんなら、つけてみな!」
「何ですって?!」
カクさんは電光石化の早業でシュレムのスカートの下をくぐった。もちろん瞬間的にショーツの色をスキャンするのも怠らなかったのである。
「ひゃッ! この~! 馬鹿オオカミ!」
短めのスカートを押さえたシュレムが振り返ると、もうカクさんは違う場所に移動済みだった。
「今日のパンツはパステルグリーンか」
それから何だか微笑ましい追いかけっこと言うか、じゃれ合いが研究所内でしばらく続いたのだ。




