クリュセイス
程なくして、オーミ姉妹社の門前にたどり着いた。アディーによって事前にアポは取れているはずなんだが。広大な古い工場跡に建てられた小粋な社屋は、現代風建築で結構な高さを誇っていた。
「何のお薬を作っている会社なのかな?」
マリオットちゃんが制服のスカートをゆらゆらさせながら、何かヒントになるような物を探す。
「製薬会社だけど、実際何を作っているのか知らないんだ」
僕は正直に、分からないという事実を彼女に伝えた。
「ふーん、ブリュッケちゃんは、この会社の薬とか見た事ある?」
「いや、残念ながらボクも知らないよ」
その時、1階のハイセンスなロビーに我々を出迎えてくれる女性が現れた。
「はじめまして、お待たせいたしました。私は当社で研究室長を担当しているランドルトと申します。よろしくお願いいたします」
今までに、見なかったタイプの女性だな。ロングの白衣姿に理知的な青フレームの眼鏡をかけているのが素敵。茶系のボサボサ頭をしていたが、決して不潔感などはなく、そういう髪型なのかと思わせた。
挨拶もそこそこに社内を案内してもらう。マリオットちゃんとブリュッケちゃんは廊下を物珍しそうに歩いていたが、学生服と白ワンピに赤ヘルのメンバーでは少々場違いだったかもしれない。
それにしてもランドルト……どこかで聞いた事がある名前だ。
そうだ! 湖賊ビルショウスキーの元にいた兵隊くずれの男の一人が、確かそう名乗っていたぞ。女性のランドルトにそれとなく尋ねてみる。
「……そうです。私には双子の弟がいて、オーミハチマン市立陸戦隊に入隊していました。もしや、どこかで弟とお会いしましたか?」
「本当の事を言うよ。ビワ湖北部のオーミナガハマ市の廃墟で会った」
「弟は厳しい陸戦隊の訓練に耐えきれず、途中で逃げ出して脱走兵となったのです。いやはや姉として恥ずかしい話です」
「元気そうだったよ。湖賊の一員となってがんばっているみたい。襲いかかってきた際、俺と戦って負けたけどね」
「ええッ!? 」
マリオットちゃんも彼の事を思い出したようだ。
「彼は、確か婦警のアディーをしつこく口説いていたよね」
「…………」
ブリュッケちゃんは赤いヘルメットを脱いで、髪を撫で付けながら言った。
「僕はもう一人いた、ヒゲの人の方が好きだったな」
何だか気の毒になるくらい、姉ランドルトが落ち込んでいくのが分かったのだ。肩を落とし、頭を垂れ、仕事を忘れて無口になってしまった。




