ビブリス
「俺は犬じゃねえよ!」
突如、提示された失礼な指名買いに、カクさんは怒りを露わにした。まあ、当然だろう……。
「こう見えても俺は植民惑星査察団の一員なんだぜ!」
「……あら、そうなのですか」
残念そうなパークスは、髪を直しながら素っ気なく答えるのだった。
制服のマリオットちゃんと白ワンピのブリュッケちゃんは、スタリオン高機動車の屋根からカクさんの背中を押しながら言った。
「彼は少々問題のあるエロオオカミですが、それでも良かったらどうぞ持って行って下さい」
「こら、こら! こら!!」
カクさんは涙目になってスタリオンの屋根に爪を立てたのだ。一方秘書のフレネルは、端末の電卓を操作して具体的な額を提示した。
「この数字ではいかがですかな?」
「悪いが、文字通り仲間を売る事はできない。他に何か代わりになるような、欲しい物はないのか?」
パークスはニヤリとした。正に冷笑と言うか、少しイヤな印象を与えかねない。
「あるにはありますが……むしろ我々にとってはこちらの方が……」
咳払いをした後、彼女は秘書に目配せをした。
「フレネル、商談をお願い」
フレネルは車から何やら取り出すと、ちょこちょこと僕の方に歩いてきて、綺麗な封筒に入ったパンフレットをうやうやしく手渡した。
「……単刀直入にまいりましょうか」
「……はい、一体どのような物で!」
「あなたの白い血を提供していただければ、ゴールドマン教授に関する情報の即時開示に加え、この金額を差上げましょう」
電卓にはすごい数の“0”を付けた金額が示されており、少しビビった。
「白い血って何だ? 白血球の事?」
フレネルは少し困ったような表情をした後、冷静さを装いながら言った。
「我々パークス商会は凍結保存種苗会社の最大手なのです」
「……まさか、人間の? 精子バンク?」
「そうです。優秀な遺伝子はとても高く売買されるのです。例えばS級奴隷の遺伝子はサラブレッドと呼ばれ、純金より高額取引されております」
「いや、俺は地球から来た植民惑星査察官で、S級奴隷なんかじゃないけど」




